34、モーニングセットの傍ら
モーニングセットが出るまでのあいだ――どのくらいの長さになるか分からないせいで落ち着かない時間――に、適切な思索なんかできようか? ……とか言ってるといつまでもやらないだろうし、モーニングセットを食べ終えたころには柔らかな眠気が漂って、「思索なんてめんどうなこと、あとでいいや」となるかもしれない。「落ち着かないと一番いい答えが導き出せない」なんて、先延ばし人間のもっともらしい言い訳だ。オバサンに中断されようが、とにかく始めよう。
僕は……もう結婚の準備はできているか? 美紀とずっと一緒にいたいのか? 心はぜひともそうしたいと思っている。だが、ネックは経済的なところだ。このままの状態でも僕自身は大丈夫だ。だが美紀には辛いだろう。ゆとりある生活のため、たまには
「はい、どうぞ」オバサンがモーニングセットを持ってきた。予想通り、僕はビクッと一度体を
パンを
もっと前、例えば子どものころは、スイスイ考えることができた。感性も
単に歳のせいなのか? やっぱり美紀に救われているのか? でも独りでいることはもともとそんなに苦痛ではない。というより、誰かといることで急に気分が良くなるということはない。美紀といることはかなり心地良いけれど、プレッシャーもあってか、正直ときどき逃げたくなることがある。逃げたくなるなんてことは、他の恋人のときもあった。もしかしたら、そこが僕の異常なところなのかもしれない。本来、心地良さが9割を占めてもいいはずだ。相手が美紀ならなおさらだ。無駄な心配性、ネガティヴ、取り越し苦労……? 中上はどうなんだろう? 考えてみると、今や付き合いのある友人なんて、中上ぐらいしかいないんだな――。
僕の思索は〈美紀との結婚について〉から
過去について考えてどうする? これからのこと、美紀とのことについて考えなくては。……しかし、これら過去のことをどう認識すればいいだろう? 失ったものについて、何を思えばいいだろう? そこがハッキリしないと、この先に進めない気もした。僕はここ何年もずっと、思索をサボってきたのだ。それがハッキリした。
――過去は戻らない。つまりやり直せない。だが失ったものについては、戻らないものもあれば戻るものもある。戻るものは、例えば体力だ。筋トレをすれば、若いころより筋力はつく。心の
そもそも瞑想をしている目的のひとつはそれだ。目的を忘れてやっていた。これだとイマイチ効果が上がらないのかな? というか、瞑想中もこんなふうに雑念や脇道に逸れた思考が湧いてきて、集中できていなかった。そりゃあイマイチなわけだ。
気が付くとトーストは食べ終えていた。サラダを口に運ぶ。
やっぱり、このあたりをきちんと整理しなければいけない。だいたい僕は、〈スケジュールを立てる〉ということもできなくなっていた。一週間はおろか、その日の予定すら立てられない。その必要性がなかった。資格を取るとか就活するとか、これといった目標もなく、その日暮らしで十分だったからだ。これじゃあ、先を見越す作業をする脳の部位がかなり弱っているに違いない。思索も滞りがちになるわけだ。
脳の訓練だ。頭の中を整理。向き合うと散らかりすぎていて、どこから手を付ければいいやら、泡を吹くぐらいだ。けど、それでも端っこからやっていくしかない。サラダも食べつくしたし、本格的に思索を始めよう。
――やり直しはできなきても、立て直しはできる!――今、ふと思ったことだけど、これは大きな発見だ。立て直しのためにも思索すべし。ま、美紀がOKじゃなかったら、こんな思索、なんの意味もないんだけど……。そんな残酷なことはありえない! と信じている。
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