5、自分の正当性を主張するためというより精神の平穏を守るためのロジックを練り上げる
朝食を取ると決心した翌朝、僕は数年ぶりの朝食をとった。そのために15分だけ早起きをした。7:15起床。朝食に何を食べたのかと言えば、白米にのりたまをかけただけだ。だが、それでいい。十分に合格だ。今後より充実したものにすればなおいい。そもそも朝はあんまり量を食べたくないので味噌汁を添えたりおかずを増やしていく気はないが、ふりかけばかりではなく、もうちょっと気の利いた一品を付けていきたい。
電車の中は相変わらずの殺伐さだった。しかし、僕は個人的に新たな幕が開いたような気がして、いつもより清々しかった。電車だって、少し早い時間に乗れば、もう少し人間的な空間かもしれない。ほんの少しの行動の変化で、精神的な変化が得られる。行動を変えることがすべてなのだ。どん詰まっていた排水パイプが、薬品洗浄剤できれいさっぱり障害物が流れ落ちるように、〈具体的な行動の変化〉という薬品洗浄剤こそが、人生を変えるのだ。行動を変える、行動を変える、より良い行動に変えていく……。僕の課題の焦点がより絞られてきた。あとはその、〈改善されるべき行動〉を探し、どう変えればいいのかを見極めていかなければならない。
そんなことばかり考えて僕は電車を降り、オフィスに入った。そしてそれまで忘れていた存在を目にした――晃子だ。晃子がいる。今日は晃子が出勤の日だった。今の今まで晃子のことを忘れていたという事実が信じられなかった。そのことで、ちょっとした恐怖まじりの動揺を覚えた。
幸いまだ目は合っていない。仲直りしたいのは山々だが、どう切り出していいかわからない。今日のうちは、できれば関わらずにすませたい。だが、そんな僕の臆病な気持ちを感じ取って、晃子がよけいに不機嫌になり、仲直りがさらに遠のくのは避けたい。
こうなったら、できるだけ目につかないようにしよう。そして晃子が近づいてきたときは、避けたいという気持ちは消して、できるだけ自然体でいよう。何事もなかったかのように。必要であれば言葉を交わす。社会人として、同僚としての礼儀と朗らかさをもって。
そう、ここは職場だ。僕たちのプライヴェートを持ち込んではいけない。僕も、そして晃子も、わがままに子どもじみた不機嫌な態度をとってはいけないはずだ――僕はそういう論理を組み立てて心の平穏を手にした。理論武装というほどの強気なものではない。どちらかと言えば守備を固めたのだ。晃子があの夜の尾を引いたような態度を見せたときのショックを柔らげるために……。
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