第33話 魔王討伐

 私は魔王のすぐ隣の部屋へ連れていかれることになった。いうなれば、魔王の妃のようなものだ。五番目の縁談の相手は魔王ということになる。食事の時間が来て食卓に着くと、やはり周りには警備の兵が見張っていた。


「魔王様、いつまでも見張られていたんじゃ嫌です。ちょっと二人きりになりたいです。それから、一緒に来たルーク様とも一緒に食事がしたいわ」


 惚れ薬を飲んでから二人の顔を見たので、薬の効き目通りの反応だった。それも計算に入れて左右別の人物を見たのだ。魔王の反応も薬のお陰で変わっていた。


「まあ、いいだろう。愛するお前の言うことだ、そのくらいの事は聞いてあげよう」

「おい、そこに立ってる兵士、ルークを牢から出してここへ連れてこい」


 兵士は面食らっていた。流石の兵士も魔王の発言を心配そうに聞いた。


「でも、魔王様、あいつを出すと危険なのでは……」

「うるさいわ! 俺に逆らう気か! 俺に殺されたくなければ連れてこい!」

「はっ! わかりました!」


 兵士も魔王の言うことには逆らえない。その魔王は私に首ったけときている。ルーク様が夕食に呼ばれて、一緒に食事をすることになった。私たちが魔王と食事をすることになるとは驚きだ。ルークは最も気になっていたことをさりげなく聞いた。


「王様、この辺りに龍がいるという噂を聞いたことがあるのですが、御存じありませんか?」

「ああ、可愛い龍の事か。あいつは俺の命令であちこちで洪水や日照りを起こしている。悪の手下になっている」

「元々は悪さをしていなかったのですか?」

「人間を脅かしはしたが、悪いことはしていなかった。俺が悪の道に引き込んだんだ。ワハハハハッ!」

「その龍は、どこに住んでいるんでしょうか?」

「なぜそんなに気になるんだ」

「まあ、よく噂に聞いたものですから。好奇心というものは抑えられませんので」

「そいつは、この館の向こうの森の中に影を潜めているんだろう。俺が呼べば活動を開始するはずだ」

「そうでしたか。わかりました」

「ふん。何がわかったんだか……。お前もよかったな。我が愛するエレノアがここに呼んでも良いと言ったんだ。有難く思え」

「エレノアさん、有難き幸せです」


 夕食を三人で食べ、終わった後ルークは魔王に願い出た。


「ほんの少し外の風に当たりたいです。出してくださいませんか。必ずや戻りますので」

「ふん。散歩とは生意気な奴だ。そんな必要があるのか」


 なにか作戦があるのだろう。エレノアも頼みこんだ。


「お願いです王様。彼の言うとおりにさせてあげてください。ずっと牢に入っていましたから、外の空気が吸いたいのでしょう」

「そうか。お前のお願いでは致し方ない。よかったな、ルーク。好きにしろ」


 ルークは、重い扉を開けてもらい、外へ出ることができた。そこからは、行動は早かった。森の奥に住むという龍の元へ走った。


「おい、龍。お前の大好物の葉を持ってきた」

「何だ、お前は」

「第十王子のルークだ。魔王の一番の手下になった。彼の命令で持ってきた」

「ふん。第十王子とは。随分格下な奴が来たもんだ。腹は減っていないが、まあいいだろう。食べてやろう」

「友情の証に、食べてくれ!」


 龍は大して美味しくもなさそうに葉を食べた。ところが食べた途端に、態度が一変した。その眼は喜びに満ち、ルークの為なら命をも投げ出すような気配だった。巨大な体をくねらせながらルークにすり寄り、後をついて城へ向かった。葉にまぶした惚れ薬が効いてきたようだ。

 こいつは俺の言うなりになる。こいつを使って、魔王をやっつける。


 城の入り口では、見張りの兵士が後ろに龍を従えたルークを見て驚いていた。


「王様に龍が会いに来たと伝えてくれ。何せこの体じゃ中へ入れないからな」

「ちょっと待っていろ」

「俺もここで待っているから」


 魔王は、後ろにエレノアを従えて扉の前に現れた。


「何のようだ。俺はまだお前に用はないが」

「私は魔王様に用がございます」

「何だ! もう少しこちらへ、それからエレノア様はあちらへ下がっていてください」

「はい」

 

 私は龍のただならぬ気配に何かあるなと感じ、魔王から離れた。まだ成り行きがわからない魔王は、胸を逸らせたまま立ち尽くしている。恰幅の良い体に顎に蓄えた髭が貫禄を付けている。


「龍よ、先ほど言ったとおりにしろ!」


 ルークが龍に向かって叫んだ。まだ魔王は自体が呑み込めていない。龍は、首を大きくもたげ、魔王に向かって口を大きく開け、火を噴いた。その火はたちまち魔王を包み込み大きく燃え広がった。魔王は火にあぶられもがき苦しみながら倒れていった。


「お前ら、私を裏切ったな! ウワー! オオ―!」


 全員が味方だと思っていた私たちの周りには、警備の兵は少なかった。数人いた兵たちも、魔王の様子を見て足も出なかった。火が消えて魔王が倒れた場所には、真っ黒な灰が残った。


「魔王を倒した! 悪い龍だと思っていたこの龍は、魔王が操っていたにすぎなかった」

「すべて魔王の仕業だったのですね」


 私は、ルークの作戦は功を奏したことを知った。龍はルークから、再び葉のご褒美をもらった。龍は何事もなかったように、長い体をくねらせた。


「ルーク様、もう龍は捕まえなくてもいいのですか」

「ああ、その必要は無い」

「それでは、領地はもらえなくなってしまいます」

「もういいんだ。これで長い旅は終わった。魔王に捉えられていた人たちを助け出そう」


 ルークは、龍に合図した。

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