第30話 闇の魔王 の住む館

 湿った重苦しい森は突然終わりを告げた。目の前には、塀に囲まれた城塞のような建物が立ちはだかった。塀はところどころが朽ちて裂け目があり、そこから中を覗くと古い石造りの住居のような建物が立っている。ルークが目配せをしていった。


「周囲に全く人のいない森の中に、何の目的で建てられたのだろうか? 何が隠されているのか探ってみる必要がありそうです」

「壁の割れ目から中に入れそうです。行ってみましょう」

「足元に気を付けて!」

「人気はないようです」


 壁の内側は森の中より更に暗く、黒や深緑や灰色の世界だった。周囲をそろそろと回ってみたところ、二階建てほどの建物で頑丈な石でできている。中から物音は全く聞こえなかった。私たちは念のため、身をかがめてゆっくりと建物の周りを回る。窓はどこにもなく、陰気ですべてを拒むようなたたずまいだった。

 周囲をもう半周以上はしているが、入り口らしきものは見当たらなかった。ルークが呟いた。


「どこかに出入り口がないとおかしい」

「ひょっとして、別の場所に入り口があって、地下に通路があるのではありませんか?」

「その可能性もあるな。外側も探ってみよう」


 私は外側の地面を、ルークは塀伝いに調べながら建物を回った。闇は深く、なかなか目が慣れるということがなかった。

 

 突然私は後ろから腕を掴まれ、ルークが掴んだのかと思い振り向いた。誰かの気配だけがして、その圧倒的な強さに一歩も動けなくなった。


「ひっ! 誰! やめてっ!」

「お前は誰だ! ここで何をしている!」

「わ、私は、怪しいものではありません!」


 男は、私の反応を見て腕をさらに強くつかんだ。それをひねり上げられたものだから、痛さで体を動かすことが出来なかった。ルークが地面に転がる石を掴み、思い切り男の頭上に振り下ろした。ガツンと鈍い音がして、男はその場に突っ伏した。


「どこに敵がいるかわからない! 人の気配を感じたら、すぐに動くんだ。相手もこちらがよく見えないはずだ」

「はい! 地面には入り口らしき穴はありません!」


 その時だ。私たちの周囲がパッと明るくなった。急に灯りで照らされ、目がくらんだ。一瞬何が起こったのか分からなかった。


「曲者だ! 捕らえろ!」

「しまった! 見張られていた」 


 あちこちから灯りで照らされ、逃げ道も見つからず、私たちは抵抗する間もなく捉えられてしまった。気がついた時には、後ろ手に縛られ、建物の方へ引っ張られていった。どこにも扉がないと思われた壁の一部に小さな取っ手があり、それが数人の男たちの手によって外側へ開けられた。中からは灯りが漏れ、私たちを捕らえた男たちと同じように武装した兵士たちが並んでいた。その通路を過ぎると再び扉が現れ、広い場所へ引っ張られた。私たちは跪かされた。前方を見ると、十メーターぐらい先の一段高いところに玉座のような場所があり、恰幅のいい男が座っていた。冠をかぶり、まるでどこかの国の国王のようだった。


「こんなところへ、自分から飛び込んでくるなんて、馬鹿な奴らだ!」

「ここは……?」

「どこだと思う……。フフフ……」

「闇の国……か?」

「その通り!」

「お前は、闇の国の王か」

「支配者だ! 全て私の思うままだ。第十王子に用はなかったが、自分から飛び込んでくるとは。何かの役に立つかもしれん。牢に入れて生かしておいてやる」

「なぜ知っている、俺の事を!」

「俺はお前たちの国の事はすべて知っている。お前たちの行動もな。森の中へ入って来た時から、分かっていた。そっちの娘も牢に入れておこう。他の娘たちと一緒に働いてもらうとするか。折角、魔法使いの手から逃れたのに、回り道して自分から捕まりに来たとはな。ウハハハッ、ハッ……」


 魔法使いに騙されそうになった時に、ルークが後ろから私の体を思いきり引っ張って助かったんだっけ。その魔法使いと、この男もグルだったのだろうか? この男闇の国の魔王では……。


「俺の恐ろしさをせいぜい思い知るがいい。牢につないでおけ!」 

「やめてくださいっ! お助け下さい!」

「やめろ、何をする!」


 魔王の一言で、跪いている私たちを男たち数人が引っ張り、私たちは暗くて狭い牢につながれてしまった。二人はそこで膝を丸めて座った。彼らが去っていくと、暗い牢の中でルークと二人だけになった。


「あの男は闇を支配する魔王だ。西域一帯を支配して、勝手気ままに悪の世界を作り出しているんだ」

「だから、西の方へ行くほど魔力が強くなって、可笑しなことばかりが起きたんですね魔法使いも魔王の手下なのでしょうか」

「どうやらそのようだ。そのうち姿を現すかもしれない」

「ああ、どうしたらいいのでしょう。牢につながれてしまい、手も足も出ません」

「何とか魔王を騙す方法を考えよう」


 私たちは、腕を縛られた状態で作戦を練ることにした。


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