第27話 ルークを元に戻す薬
三人は汗だくになりながら、取ってきた虫や草を切り刻み鍋に入れてぐつぐつ煮だしていった。周囲には異様な香りが漂っている。鍋の中の液体は茶色く濁り、とても口にできるような代物とは思えない。本当にこんなものを人に飲ませて大丈夫なのかしら。
「これ、出来たら誰か味見しますよね?」
「何を言ってるの、エレノア様。飲むのはルーク様ただ一人。色々試してみましょう」
酷いわ。誰も味見しないでこんなものを飲ませるつもりなの。どす黒い液体は、煮詰まってドロドロになってきた。
「さあ、いいでしょ。まずはこれを飲ませてみましょう」
「こんなものを飲ませて命の危険はないんですか! おかしくなっちゃったら、どうするんですか!」
「そんなに怒鳴らないでよ。じゃああなたが飲んでみる?」
「あああ、私は結構です」
エリアさんはスプーンでそのどす黒い薬をすくいカップに入れた。
「さあ、どうぞ。ルーク様、試しに飲んでみてください」
「うっ、凄いにおいだなあ。これは何だ」
「これは……。ダリアお母さまを……もっと好きになる薬です」
「ほう、それは素晴らしい。これ以上好きになりすぎちゃったらどうしよう。君のためにどんなに苦くても飲むよ」
ルーク様は、情熱的なまなざしでダリアさんを見つめ、手を握りながら一口飲んだ。うっ、うっ、とせき込んでいる。
「うっ、げえっ、不味いい――」
「で、どうですか。気分は?」
「……」
「変わりませんか?」
「いや、別に。特に変わらないな。おお、ダリアさん。いつも美しいですね」
相変わらずダリアさんに、べたべたくっついている。効果がなかったので、再び辞典を開いて作り直した。あまりのまずさに抵抗したルークだったが、今度こそはとエリアさんが熱心に進めようやく飲んでくれた。
「どうですか、飲んだご感想は?」
「……う~ん、あれ。俺は何を飲んだんだ? あれあれ」
効き目が表れたのだろうか。私はルークに訊いてみた。
「ルーク様の好きな方は、誰ですか?」
「さて、誰かなあ。エレノアさん、僕に好きだって言ってもらいたいんでしょう?」
「いえいえ、私は別に……。この三人の中に好きな方はいらっしゃいますか?」
「いや、いない!」
「あ~、良かった! 元に戻ったんですよ、ルーク様!」
それを見たダリアさんは悔しそうにいった。
「何だ。私が好きだったんじゃないのか。けっ!」
「何を言っているんですか、ダリアさん。僕はあなたを好きになったことはありませんよ」
「何だって、ルーク様。あれほど私に夢中だって言ってたじゃないか?」
「知りません!」
エリアは、すました顔で言った。
「もうすべてばれてしまったのよ、お母さま。これ以上悪あがきはやめておきましょう。私たちももうこの二人は放っておくことにします」
「そうとわかったら、もう僕たちはここを去ることにします」
「まあ、ルーク様名残り惜しいわ」
エリアさんは、惚れ薬の効果が自分に現れなかったことを悔しがっている。私は門柱の骸骨の事を聞いてみた。
「最後に一つ、教えてください。あの門中に掛けられていたのは人間の頭蓋骨ですね」
「まあ、そうですが……それが何か?」
「ここへ来た誰かが犠牲になったということですかっ?」
「ホントの事を言うと思って聞いてるのかしら?」
「何を聞いても驚きませんので、教えてください。私それを考えて、夜眠れなかったんです」
「まあ、教えてあげてもいいわ。あれはね、雪山で行倒れてしまった人の骨なのよ。春になって、見つかったんで家の守り神にすることにしたの。まあ、獣でも人間でも同じようなもんでしょ」
「はあ、そうですか……」
エリアさんはすっきりした顔でいった。
「もう色んな疑問も解けたし、全部ばれちゃったし、そろそろ出発しますか。今日は一日天気もいいようですから」
「そうしましょう、ねえ、ルーク様」
私も同意すると、ルーク様は今まで何が起きたのかわからず、きょとんとしていた。
「そうだな。色々お世話になりました。僕たちはそろそろ出かけます。まだまだ旅は長いですから。ああ、一つお願いがあるのですが、僕に飲ませた惚れ薬とやらを、少し分けてください。ついでに、元に戻す薬も」
「あら、誰かお目当ての女性でもいらっしゃるのかしら。怪しいわねえ……」
「まあ、そんなところです」
「素敵な王子様に免じて分けて差し上げますわ。お持ちください」
エリアさんは、二種類の薬を私たちに分けてくれた。太っ腹な魔女たちに感謝して、私たちはどくろの館を後にした。
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