第24話 ここはどくろの館
その晩、私は未明に目が覚め起き上がってみた。まだ頭はぼうっとして熱はあるようだったが、昼間から寝ていたので体を起こしてみることにした。明るい月明かりが窓から差し込み、隣のベッドで眠るルークの布団が上下していた。空気は冷たくなってきたが、気持ちはだいぶしっかりしてきた。私は、ここがどんなところなのか知りたくなり、窓の外を見た。庭の周囲には木々が生い茂り、雪をかぶってこんもりと白い綿毛のように丸くなっている。ここは二階建ての屋敷で、私たちの部屋は二階の眺めの良い部屋だった。月明かりで、門柱やその内側の庭や屋敷の一階の入り口が眼下に見えた。雪は降っていなかった。月明かりに照らされた門柱の上に何か白い物が見えた。あれは何だろう。丸く白い光がそこだけほの明るく見える。まるで、それは人間の頭のように見えた。いや頭ではない、頭の骨のような……なぜそんなものがこの屋敷の門柱に掲げられているのだろうか。私の目の錯覚に過ぎないのだろうか。
この家で感じた暖かさは表向きの物なのだろうか。この家には隠された何かがある、と私は背筋が寒くなった。このことを早くルークに知らせなければならない。しかしまだ夜明けまでは時間がありそうだし、彼は疲れ切って熟睡しているようだ。もうしばらくベッドの中で時間が過ぎるのを待とう。私は、再び布団をかぶって外が明るくなるのを待った。
ようやく、東の空がほの明るくなってきて、あと少ししたら太陽が見えてくるだろうという頃合いを見計らって、起き上がった。体を休めていたので、だいぶ楽になっていた。そろそろと起き上がると、ベッドの中にいたルークと目が合った。
「もう起きたのですか?」
「明け方になってうとうとしていました。エレノアさんの事が気になってあまり寝付けなかったんです……」
「あら、私も夜中に一度目が覚めてしまったんですが、またベッドに入っていました。ルーク様……私はだいぶ良くなりました。ほら、この通り」
ベッドの周りをまわって歩き、おどけて見せた。そして、窓辺に立ち再び門柱にかかっている白い物を見た。うすい靄の中で見るそれは、やはりどくろのようだった。
「ルーク様、私昨夜から気になっていたことがあるんです。あそこを見てください」
「どこですか?」
ルークが起き上がり私の隣で窓の外を見た。
「あの門柱にかかっている白くて丸い物。私にはどくろに見えるのですが……」
「ああ、あれかあ。う~む、どくろのようだ。丸い穴が二つに、真ん中がとがって、下に口のように横に開いた穴がある。なぜあんなものが掛けてあるんだ」
「あのう、ここの人たちちょっと普通じゃないような気がします。だってダリアさんは、人間離れした怖い顔をしているし、二人の姉妹はどんな人なのかはわかりませんが、雪の中家族で歩いていたなんて、ちょっと普通じゃないような気がします」
「そうだな。僕たちが見つかったのだって、人が歩きそうもない所を歩いていて見つけたんだからな」
「それで、私たちが命拾いしたのですけれど……」
「今はとりあえず、ここで体力を回復させよう。すぐに出発することも危険が伴う」
「どくろが掛けられている館に住んでいるからと言って、悪い人とは限りませんね」
☀
太陽が雪の上に顔を出し、雪に反射する光がまぶしくなってきた。ノックの音がしてエリアが朝食を持って入って来た。ルークと私が起きているのを見て言った。
「私は妹のエリアです。今朝はパンとスープをお持ちしました。もう召し上がれますね」
「ありがとうございます。美味しそうな匂いです」
初めて会うエリアは、陶器のように白い肌をしていて朝の光を受け、輝いていた。同性の私が見ても羨ましくなるようなきめの細かい肌をしていた。雪に埋もれるように建つこの館の中で奇跡のように美しいもののように見えた。お盆を受け取ったルークの瞳は、彼女の姿を追っていた。
「ミリアさんが僕たちを見つけ出してくださったそうですね」
「はい、ミリアは私の姉です。どこへでも率先して出て行く勇気ある女性です。私はいつもついて行くばかりですが。でもお二人とも助かってよかったわ」
「奇跡としか言いようがありません。皆さんが通りかかっていなかったら、僕たちは今頃凍死していたでしょうから」
私は、思い切ってミリアさんに訊いてみた。
「皆さんこんな雪深い山の中をどうして歩いていらっしゃったのですか?」
「どうしてと言いますと?」
エリアさんは私の方を向いたが、無表情で氷のような顔に見えた。
「なぜ、歩いていらっしゃったのかなと思いまして……」
「獲物を捕るためです。この山の中ですから、ウサギやキジなどを仕留めて食料にしているんです。山の生活ですから、仕方ないんですよ」
「そうでしたか。失礼なことをお聞きしてしまいました。それから……」
「まだお聞きになりたいことがあるの?」
「あの、外の門柱にかかっているのは……何でしょうか?」
「ああ、あれは。動物の頭の骨ですわ。この地方の言い伝えで、家の守り神になるのです」
「そんな言い伝えがあったのですか。わかりました。私には人間の頭蓋骨のように見えてしまって、恐ろしくてしょうがなかったんです。安心しました」
それを聞いた時の、エリアさんはひどく恐ろしげで、私を射抜くような瞳をしていた。これは本当にどくろなのではないかと、私は確信した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます