第21話 雪の中から救出されて

 どのくらいの時間が経ったのだろうか。私は、ふと目を開けた。ところが、真上に見えるはずの空が……見えなかった。真っ暗なので時間もわからない。ここはどこなのだろう。ああ、数時間前にルークと穴の中に潜ったけど、ここは天国なの? 私は死んでしまったのだろうか? すると、もぞもぞと隣にいたルークが動いた。あっ、ルークと一緒だった。こんなに近くにいたのだ。


「おい、そろそろ外へ出よう! 上に雪が積もってしまった」

「ゴーッという音は、雪崩だったの?」

「そのようだ」


 閉じ込められてしまった。雪が深かったら出られないかもしれないが、なぜか恐怖心はなかった。ルークと私は、必死で上に積もった雪を掻きながら、道を作っていった。雪は固く手の感覚は次第になくなっていったが、ただ地上に出ることだけを考え掘り進んだ。


「諦めたらだめだ、頑張れよ」

「あきらめません。ルーク様と一緒だから」

「よし!」

「でも、息が……」

「少し苦しい」


 息が苦しくなったが、それでもあきらめはしなかった。何が自分を動かしていたのかもわからなかったが、ただひたすら掘った。コロロも何とか応戦しようと前足を動かした。手袋越しにも雪は否応なく氷のように私たちの手を凍えさせ、突き刺すような痛みが両手の感覚を奪った。ほんの少しつづしか雪は掻くことができない。頭上はもともと空洞だったはずなのに、どれだけの雪が上に積重なっているのだろうか。


「ルーク様……私たち雪の中に閉じ込められてしまったんですね」

「そうだな」

「御免なさい」

「なぜ謝る?」

「私が歩くのが遅いから、ここで穴を掘って一晩過ごさなければならなかったんです」

「何も言わなくていい!」


 泣き言を言っても事態は変わらないのに、つい甘えてしまった。叱られて、生きる気力が再び湧いてきた。そうだ、ここで死んではならないんだ。手を動かし、必死で呼吸し少しでも上へ這い上がる。しかし私の体はもう限界に来ていた。体はしびれ、意識が遠のいていく。


「ルーク様……御免なさい。私もう……」

「エレノアさんっ! しっかりしろ!」

「ルーク様、今までありがとう……」

「エレノアさんっ! おいっ、目を開けろ」


 それが私の聞いた最後の言葉だった。それでも一人で掘り進んでいたルークも意識を失い、二人は抱き合った状態で雪の中で気を失っていた。


 それからさらに時間が経過した。地面の上を大型犬と三人の女性たちが歩いていた。昨日の吹雪が収まり、太陽の光が輝き、森の中を照らしていた。鋭い目つきで口元が曲がった恐ろし気な容貌の母親ダリアと、二人の娘たちのミリアとエリアだった。娘たちは年若く、きびきびと動き回ることができた。彼女たちは、木の上に何かが引っ掛かっているのを発見した。妹のエリアが言った。


「あら、何かしら」

「袋が引っ掛かってるわ。取ってみましょう」


姉のミリアがジャンプして袋を取った。


「中に野菜が入っているわ。こんなところになぜ野菜が掛けてあるのかしら?」


母親のダリアが言った。

「変ねえ。大切な野菜を置いていくわけがないし……」


 連れていた犬が地面に鼻先を突っ込み、わんわん吠えている。ここに何かが埋まっているのかしらと、姉のミリアは気になった。犬の泣き声はやまず、一か所に固執して吠え続けている。彼女は母ダリアに言った。


「こんなに泣くなんておかしいわね、何か埋まってるのよ。掘ってみましょう」

「まあ、やめた方がいいんじゃない。へんなものが出てきたらどうするの」

「やってみましょうよ。スコップを持ってくるわ」


 ミリアは、家からスコップを持ってきて、犬が吠えていた地面を掘り始めた。すると、少し掘ると、ぼこッとくぼみができ中が空洞になっていた。中を恐る恐る見てみると、男女が抱き合って倒れていた。体は斜めの状態だった。

 三人は、顔を中に突っ込み悲鳴を上げた。ミリアはまるで死体を掘り起こしたような気分だった。


「た、た、たっ、大変だわ!」

「生きてるのかしらっ」

「ちょっと触ってみて!」

「ああ、お母さまが触ってみてよ!」

「げっ、私だっていやよ。掘り起こしたあんたが触ってみなさいよ、ミリア!」


 そうしていると、犬がぺろぺろと二人の顔をなめだした。二人の顔に太陽の光が当たる。暖かい空気と太陽の直射日光を浴びて、顔が次第に温められていく。三人は、力いっぱい二人の体を引っ張り上げた。


「ひょっとすると生きているかもしれないわ。放置したら、呪われちゃうからねえ」


 母親は、そう言って引き上げた二人の頬に手を触れた。


「生きているみたいね。連れて帰らなきゃならないわ」

「じゃあ、今度はそりを持ってくるわ」


 ミリアは再び家に戻りそりを持って戻り、二人と野菜を乗せて出発しようとした。すると穴の中からクーんくーンと鳴き声がした。


「この犬も一緒みたいね。連れて行きましょう」


 そして、二人と一匹を連れて家の中に運び入れ、ベッドに寝かせた。暖炉に火をともし、部屋を暖めているとう~んと唸り声がした。ルークが最初に目を覚ました。どこかの家にいるようだ。エレノアはっ? 部屋の反対側にあるベッドに寝かされている。助かったのだろうか。ルークはふらふらした体を動かし、エレノアの方へ近寄った。手に触れると、温かみが戻って来ていた。ああ、助かったのだ。足元ではコロロが丸くなって眠っていた。

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