第19話 地下帝国脱出
ルークは食堂を出て、レイラと共に一旦部屋へ戻った。その後、レイラの姿が見えなくなると廊下へ出て食堂へ戻った。食堂前の廊下で待ち構えていると、仕事を終えた給仕係の女性が出て来たので、声を掛けた。
「ここの食材は、どこから運んでくるのですか」
「ああ、あなた様は先ほどお食事されていた外国の王子様ですね。ご案内いたします」
彼女は、狭い通路を迷うことなく歩き、何度も曲がり角を曲がりながら、食品の貯蔵庫へ案内してくれた。そこは、灯りもなく温度も安定していて、野菜を貯蔵するにはうってつけの場所だった。傍には水も流れていて洗うこともできた。
「この野菜は、どこから運ばれてくるのですか?」
「それは、地上の畑からですが、なぜそんなことまでお知りになりたいのですか?」
こちらが、色々知りたがるものだから、警戒してきた。ルークは、持参した宝石の中から一つを取り出し、彼女の目の前に見せた。それはほんの少しの光を集め反射して、美しい虹色の光を放っていた。
「あなたにこれを差し上げます」
「あら、私を買収するおつもり?」
「いえ、そんなことは致しません。こちらの国にお邪魔してお世話になったお礼です。地上へ持って行けば高値で売れるでしょう。何かの時にお役立てください」
「まあ、わたくしにこのような高価なものを。ありがとうございます」
ルークは耳元で囁いた。
「では、野菜を採る畑への近道を教えてくださいますね。僕は旅をしていてここを通りがかっただけですので、後で何かしようなどという企みはございません」
「はい、分かっております。こちらでございます」
給仕係の女性は、すっかり信用して野菜を栽培している畑へ案内してくれた。ルークはこの時もしっかり道順を頭の中に刻み込んだ。
「畑の外には、道はありますか」
「はい、少し行くと十字路が見えますね。東西南北どちらへでも行けます」
「本当に優しい方だ。感謝します。それから僕と畑に来たことと、あなたにあげた宝石の事は二人だけの秘密ですよ」
「もちろんです。誰にも言いません」
ルークは出口を探り出すことに成功した。しかしこれだけではまだエレノアを連れ出して脱出するまでには程遠い。エレノアはまだ部屋には戻って来ていない。アレックスの目の届くところにいるに違いない。一人になったすきを狙って連れ出さねばならない。ルークはアレックスの部屋へ行き、扉の内側に人の気配があるかどうか探ろうと、木の扉に耳をくっつけた。エレノアはルークの隣の部屋ではなくやはりここに来ていた。彼女の声とアレックスの声が聞こえる。ルークは思い切ってノックした。するとアレックスが扉を開けて姿を現した。奥のソファにはエレノアの姿が見えた。やはり二人でいたのだ。
ルークは彼が扉の所まで来たところで、持っていた短剣を首元に突き付けた。
「なっ、何をする! 俺を王子と知ってこのようなことをするのか! 貴様ただじゃすまないぞ!」
「危害を加えるつもりはないっ!」
ルークは、そのままの体制で後ろ手に扉を閉めた。
「エレノアさん、もう大丈夫だ。すぐままこの部屋を出るんだ!」
「えっ、逃げ道は分かるのですか! こんな複雑な地下道を、私たちだけでは抜けられません!」
「いいから急げ! 俺に任せろ!」
アレックスは、腕を掴まれ首筋に短剣を突き付けられ身動きがとれず、苦痛で顔を歪めた。
「エレノアさん、行くな! 俺が言ったことは本当だ!」
「御免なさい。私は、ルークと一緒に行きます!」
私の居場所はここではないと、心の中で警鐘が鳴っていた。ルークが助けに来てくれたのだ、もうためらうことはない。彼と一緒に逃げよう。ルークはアレックスに言った。
「お願いだ。もう僕たちを自由にさせてくれ。今後君たちの国にはかかわらないから。君さえ黙っていてくれれば、この剣はしまう」
「なんだとっ! お前たちを逃がすものかっ!」
「どうしてもだめなんだなっ! じゃあ、暫く眠っていてくれ!」
ルークは、アレックスのみぞおちに思いきりパンチした。お腹を押さえ床で苦しんでいる彼に更に一撃すると、アレックスは気絶してしまった。
「アレックスが……死んでしまったの?」
「いや、この程度じゃ死ぬようなことはない。暫く気絶していてもらおう。その間に逃げるんだ」
「はい、わかりました。あと、コロロはどこに」
「泣いて騒ぐと困るので、鞄の中に入っててもらった」
ルークはどうして、私が脅されて仕方なく結婚を受け入れたことに気がついたのだろうか。
「ルーク様、私が騙されたのだとどうしてわかったのですか?」
「ああ、国王と王子が話しているのを聞いたんだ。エレノアさんと結婚して地上の国へ進出する足掛かりにしようって、相談していた。急いで知らせようと思ったんだが、もうエレノアさんは連れ去られた後だった」
「やっぱりこの人たち私を利用しようとしていたのね。私は、結婚しないとルーク様を捕らえるとアレックスに脅されました」
「全く酷い親子だった。国王の部屋を通らないで出口まで行くから、急ぎ足で着いてくるんだ!」
「はいっ!」
私たちは全速力で狭い地下道を直進したり、曲がったりしながら、地上へ出ることができた。ルークの記憶力は素晴らしいものだ。一度案内してもらった道を頭の中に叩き込んでいる。私たちは洞窟の外へ出ると、二日ぶりで見るまぶしい太陽の光に目を細めた。
「やっぱり僕は地上の国がいい」
「私も。お妃になれなくても、地上の国がいいわ」
「本当にいいのか。地下帝国で妃になれるチャンスを僕が奪ってしまったようなものだが」
「……まあ、私にはこんなチャンスはなかなかないかもしれないけど……」
「でも、なったらなったで後々君は取引の道具として利用されるだろうから、逃げてきて正解だと思うよ」
「そうですね」
私たちは、再び土の道を踏みしめて西を目指した。
「ルーク様。バッグが荷物でパンパンですが、何が入っているのですか?」
「ああ、これ。来る時に給仕係の女性に野菜をもらってきた。食料にちょうどいいと思って」
「まあ、いつの間に……」
コロロはルークの鞄の中から飛び出し、私たちの周りを嬉しそうに跳ねまわった。
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