第18話 本心が見えない……
昨晩のうちに抜け出すことが出来なかった。重い頭を抱え起き上がり、ルークは後悔の念で打ちひしがれた。なぜ自分がこんなに苦しい思いをしているのかもわからない。エレノアが、誰と結婚しようが自分には関係ないのに。ここから一人で旅をすればいいだけのこと。悶々として部屋にいると、ノックの音がして、朝食の準備が来たとレイラが呼びに来ていた。
「朝食の準備が整っております。昨日の食堂へご案内します」
「はい、すぐ準備しますので、お待ちください」
ルークは、ここで迷ってしまったら大変なことになると、案内された場所はすべて道順を覚えるようにしていた。しかし、それは自分の胸の内にしまっておきレイラの後をついて食堂へ向かった。食堂にはすでに国王と王子、それにエレノアがちょこんと座って待っていた。
「あっ、エレノアさん」
ルークは私の顔を見てこんなにうれしそうに喜び、同時に疑念に満ちた視線をこちらに向けている。彼の胸の内には様々な疑問が湧き上がってきているのだろう。自分が部屋にいなかったことに気付いたかもしれないし、コロロに探させれば私の居所は分かっただろうから、なぜ部屋を出てアレックスと一緒にいたのかわからないことだらけなのだろう。
ルークはなぜエレノアがアレックスと愛を誓いあっていたのか理由が知りたかった。しかし、二人を目の前にすると、すぐには言葉が出てこなかった。するとアレックスがルークの眼を見返して言った。
「おはようございます、ルーク様」
「ああ、おはようございます」
「よく眠れましたかな?」
「あまりよくは……」
「ほう、そうでしたか。どうぞおかけください。大事なお話がありますので」
ルークは、ためらいがちに食卓に着いた。すかさずアレックスがルークにいった。
「お話というのは、エレノア様の事です。彼女と昨晩じっくりとお話をした結果……僕の結婚の申し込みをお受けくださるというお返事を頂きました」
「えっ、そんな馬鹿な! エレノアさんがそんな返事をするはずが……」
「ない、とおっしゃるのですか。それでは彼女からお返事をお聞きください」
「私、アレックスさまと結婚することにします」
「本心からなのか! エレノアさん」
「私の本心です。ですから、ルーク様はお一人で旅をお続けください。国の両親にはあとで報告いたします」
「そんなことが、そんなことが許されるとでも! 正気ですか?」
「はい、私アレックスさまとお話しして、決めました」
「……ああ、エレノアさん」
これ以上ルークの言い返す言葉はなかった。エレノアから直接結婚すると言われても、自分には辞めさせる権利などない。それを聞いてからの食事は味気なく、ルークは今日中に立ち去るとは言い出せなくなった。何か良い手はないだろうか。ルークは苦し紛れにある提案をした。
「素晴らしい地下都市ですね。こんな機会はめったにありません。もう一晩こちらで泊めてもらいたいのですが。長旅の疲れをいやしてから出発したいと思いますので」
「我々の地下帝国を地上の皇太子殿下に気に入っていただけるとは、光栄ですね。では、もう一晩お泊りになって、疲れをいやしてから出発なさいませ」
「ありがとうございます」
ああ、もう一日は猶予が出来たと、ほっとして朝食を流し込んだ。ルークはエレノアに声を掛けた。
「エレノアさん、お話があるので食事が終わったら、僕と一緒に部屋へ戻りましょう」
二人きりになれば、事の真相を話すことができるが、それは許されないと禁じられた。承諾したら最後、二人ともここへ留めおきされると脅されたていた。
「ああ、ルーク様。私はもうアレックスと結婚を約束した身。他の男性と二人でお話などできません」
「なぜだっ! 今まで困難な道を助け合ってここまで来たのに、最後に話ができないとはっ! もしや、アレックスに脅されているのでは?」
「これ以上、私を攻めないでください。別れがつらくなってしまいます」
二人の話を満足そうに聞いていたアレックスが、ルークに行った。
「エレノアさんがこうおっしゃっているんだ。往生際が悪いな、第十王子様っ!」
「何だと! お前たちの狙いは何だ! エレノアを巻き込んで、ただじゃ置かないぞ!」
「興奮なさらないで、ルーク様」
「ああ、俺としたことが……」
「お話はいくらでもどうぞ。ただし私の目の前でなさってください。すでに彼女はわたしと結婚の約束をした女性ですので……」
また、アレックスは結婚の約束の事を言ってルークを刺激している。アレックスは胸を逸らせてルークに挑むような目つきで睨んでいる。昨日の酒に酔って、ベッドで眠ってしまった気弱そうな彼とは全く違う姿に、私は驚いて目を丸くした。ああ、どうにか彼が自分から結婚をやめようと言ってくれないだろうか。何か良い方法はないか。
私は、ずるずるとスープをすすったり、大きな音を立てて鼻をかんだりした。そして、食事の後はげっぷをしたり、お腹をさすって満腹したという動作を繰り返した。これで、私に愛想をつかしてくれないだろうか。それに気がついたアレックスは言った。
「エレノアさん、すっかりここの生活に馴染んでいるようですね。この調子ならすぐになれますよ」
「えっ、そうですか。私って下品だってよく言われますが」
「いえいえ、気さくな方で、気に入りました」
「はあ、そうですか……」
嫌われるように、下品にしたつもりだったのに効果がなかった。どうにかしてこの状況をルークに伝えたい。アレックスと結婚する気などないことも口元まで出かかっているが言葉を飲み込んだ。
国王のストーンもこの状況を見てご満悦だ。
「アレックスの魅力に参らない女性はいないようだ。我が息子ながら嬉しいものだ」
「父上、有難きお言葉です」
本当にこの人は父王には頭が上がらないようだ。この人の弱点は父上、しかしどうやってその弱点を利用することができるのだろうか。考えても考えても、出口へたどり着くことが出来なかった。
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