第7話 ヒルヘビ(?)襲来

「ねえ、その悪い龍というのは、どうやってやっつけるつもりなの?」

「それが、そいつの弱点というのが全く分からないんだ」

「じゃあ、出たとこ勝負っていうことね」

「でも、行ってみなければ何もわからない」

「それはそうね」


 出たとこ勝負なのは私と一緒。それでも、やっつけようとか、探しに行こうとかってすごい根性と神経をしている。私が一緒について行って足手まといにならないといいけど。


「一人より、二人の方がいざという時に役に立つかもね」

「いや、本当は一人の方がいいんだけど、君を放っておくわけにもいかないから」


 結構優しいことを言ってくれる。こんな言葉が、今の私にはグッとくる。私は第十王子に対して、すっかりため口を聞いてしまっていた。

 

 南へ向かう道は次第にぬかるんできて、沼地のようだった。足は既に靴を履いているのかどうかわからないほど濡れてしまっている。それでもできるだけ石の上を歩いたり、腐りかけた丸太の上を歩いた。


「本当に……この道でいいの?」

「目的を達成するには、険しい道を通らなければならないんだ」

「道が険しいからと言って、正しい道とは限らないと思うんだけど」


 さて、どんな反応をするだろうか。私は反応を見たくなった。


「たまたま道が険しかっただけの事なんだ。でも、それじゃあ君のやる気が出ないだろうと思った」

「そうお……道が険しい方がやる気が出る、かあ。まあ、確かに一理あるかも」

「おっ、沼地に何かいるぞ。吸いつかれないうちに急げ!」


 地面が波立つように、あちこちで盛り上がっては引っ込んでいる。中で何かが蠢いているような……


「ヒルがいるのかっ! 素早く足を動かせ!」

「ギャー、ヒルなんかいるのっ!」


 私は後れを取らないように必死で足を動かす。こんなに思い切り走ったことがないというほど、ぐちゃりと地面に足をめり込ませながら、くっついた泥を振り落としさらに足を動かす。しかし、地面からひものようなものがするすると立ち上がり、私の足首に絡みついた。こんなところでスカートなどを履いている自分が恨めしい。


「いやっ!」


 私は、それを必死でつかみ振りほどこうとした。しかし、それは吸盤のようなもので足首に吸いついて離れようとしない。ヒルはもっと小さいんじゃなかったっけ。これは蛇のように長いが、蛇とは似ても似つかないもの。でも動いているんだから、生物には違いない。

 その長くて足に吸いつくものを掴もうともがいていると、ルークが後ろを振り返った


「今助けに行く!」

「早く来て!」


 その生き物の吸盤は鋭く、どんどん足首を締め付けていく。何のためにこんな強く締め付けるのだろう。これでは血の流れが止まってしまう。さては、血流を止めて相手の息の根を止め、その肉を食らうのが目的なのでは! 私は、そいつに爪を立て、苦痛を与えようとがりがりとひっかいた。そんなことでは、吸盤の力を緩めてはくれない。その一匹と格闘しているうちに、もう一匹がするすると私の足元から昇って吸いついてきた。


「ぎゃっ、もう一匹現れた! 助けて!」


 私は無我夢中で、登り始めたもう一匹を引きはがそうとした。二匹に絡みつかれるわ、泥の中に足ははまっているわで、もう身動きが取れない状態になった。二匹はぐいぐい私の足を締め付けてきて、血の流れが遅くなっていく。


「こいつめ! こうしてやる!」


 ルークは、持っていた短剣を、そいつの多分首辺りをめがけて突き刺した。ビューッと血が飛び散り地面が赤く染まった。締め付けが緩くなった。それでもまだ足首にくらいついている下半身を思いきり引っ張り投げ飛ばした。


「こっちの奴も、とどめを刺してやる!」


 まかり間違えば、私の足に刺さってしまう。私はぎゅっと目を閉じた。目を開けると、先ほどと同じように、短剣はそいつの首元に突き刺さり、吸盤からは力が抜けていった。


「早く沼地を抜けよう! 僕が歩いたところに足を乗せて歩くんだ。そうすれば絡まれることはない」

「それならそうと最初から言って」

「今気がついたんだ」


 ズボンを履き足元が全く出ていないルークには、ヒルヘビたちは絡みついてこない。私は言われた通り、彼の足跡のある場所を踏みながら、思い切り足を延ばしてついて行った。もうそいつらは足に絡みついてくることはなく、膝ぐらいまで泥を跳ね飛ばしながらようやくどろどろの道は終わった。後ろを振り返ると、私たちが付けた足跡が、一定の間隔で並んでいた。先ほど吸いつかれた足首を見ると、吸盤の跡が残りあちこちが赤くなっていたが、気にしている場合ではない。こんなところは早く抜け出したかったので、必死でルークについて行った。

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