第25話アノ人

雫が、パトカーに乗せられる時に、森脇は寂しそうな顔をした。狂は、そんな顔すんなよ、美人が台無しだぜと言った。雫は、ニッコリ笑って狂の気持ちが初めて分かった気がした。


警察には、母が迎えに来た。アノ人が自殺したと雫に母は静かに言った。アノ人が自殺?そんな勇気があったなんてと思った。いつも機械のように生きて来たアノ人と言う父親。何故か、空虚な空洞が雫の心を襲った。


アノ人にも、心があって毎日の繰り返しの虚しさを感じたのだろうか?鉄のように強く生きて行けと雫に言っていたのに自分自身は自分を殺した。呆気ないアノ人の最後。会社の屋上から飛び降りて死んだ。


夜には、親戚が集まりお通夜、葬式の用意が着々と進んだ。家の中は久しぶりに人でごった返して狂はきょろきょろしている。母は、放心状態で親戚が母の代わりに葬式の段取りをしてくれた。父の死体はぐちゃぐちゃで見れるものではないから見ない方が良いと叔父に言われたが狂が見たいというので見た、その衝撃は狂と雫にズッシリとのしかかり脂汗をかいて失神した。

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