第20話パラダイス
「学校で、問題起こしたんだって?」と父が新聞を閉じて雫とは目を合わさずに聞いてきた。夕食の食卓に冷たい空気が流れた。ヤベーぞ、アイツが話しかけてきたぜ。狂は珍しく萎縮したような声を上げた。「別に‥。」と雫は素っ気なく答えた。この父親という塊をした物体は自分の妻からもアノ人と呼ばれるようなロボット人間だ。鉄のような頑丈な精神と肉体で人に弱さを見せようとしない独裁者のように雫の目には写っていた。ヒ○ラーとゲシュ○ポを合成させた物体はさすがに俺様も苦手だぜと狂は呟いて脳の片隅に隠れてしまった。「大概にしとけよ。」とアノ人はそれだけ言うと自室に引き上げた。母はほっとしたような安堵した表情を見せた。「母さん、僕が、父さんと喧嘩するとでも思ったの?」母は何も言わずに寂しそうな表情を顔に浮かべて笑うだけだった。いつも母はそうだった。父との会話など無く、寂しさから新○宗教にのめり込んで神を信じて、この世は酷い所だと思い、パラダイスがいつか来ると願っているだけの気持ち悪い母親だ。母は群衆から石を投げつけられていた女のようにイエス・○リストに助けられたのだ。幼い頃に連れて行かされた週三日の集会は雫には苦痛でしかなかった。みんな笑顔で雫に接してくれたが、讃美歌を歌って感動で涙を流す母の姿は哀れで恥ずかしい存在だった。狂は大声で讃美歌を歌い。聖書を読んではゲラゲラ笑っていた。パラダイス=楽園なんてあるかよ。死んだらそこでゲームオーバーなんだよ。誰かが死ななかったたらこの世は楽園という投獄になっちまうぜと狂は言った。
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