最終話 morning

あれからどのくらい時がたっただろうか、

おじいさんがなくなって、もう、10年ぐらいか。

ひどく懐かしい夢を見ていた気がする。逆らい難い布団の誘惑に打ち勝ち、

隣で寝ている嫁をおこさないように、そっとダブルベットを抜け出る。

寝ている嫁の顔はいつも患者を相手にしている笑顔よりもずいぶんだらしないが、

ずっと見ていられる笑顔だ。生命を育むおなかもすこし大きくなりつつある。


下では、定年を迎えた父親はまだ寝ていて、母が朝食の準備をしている最中だった。

一念発起して、頑張った甲斐はあった。

まだ目新しいキッチンを使って、楽しそうに料理をする母を見ていて、

こちらまで幸せが伝わってくる。


家族増えたことやこのキッチンだけでない、変わったものはたくさんある。

あんなに嫌だったこの町も今や私の立派な拠点ホームだ。

そして、一番変わったのは…

「店長、コーヒーとタピオカの準備おわりましたよ。」若々しい声が仕事場に響く。

日課となった黒猫を抱きながらにこにこしているおじいさんの写真の前で線香をあげる。

「まだまだ行列とはいきませんが、周りに恵まれ、楽しくやらせてもらっています。

どうぞあたたかく見守ってください」


さあ、今日もカフェ「ひだまり」の朝が始まる。

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