第5話 broadening

「それで、カフェの名残が…、すみません。コーヒーまでもらってしまって。」

私は遠慮していたのだが、

結局、好々爺然とした笑顔と猫の付きまといにほだされ、なされるまま玄関先で手当を受けていた。

手当中に、ふと疑問に思ったことを聞くと、

数年前、奥さんがなくなるまでは夫婦で仲良くカフェを営んでいて、なくなったあとも1年は続けていたが、よる年月には勝てなかったらしい。

ニコニコしながら、爺さんはいう。

「名残おしさに最後の日にはコーヒーを飲みながら泣いてしまう常連も多くて。

そのときに気づいたのさ。「ああ、この連中、こどもみたいだな」って。

子供はいないけど、ここにきてくれる常連はその、子供みたいなものだから。

そんなことだから、どうしてもやめるにやめられなくて、ね。

ばあさんも「子供」が好きだったから。

どうせ、数十年でばあさんには会えるだろうし。

いっそのこと、このカフェを子供が集まるような店にしたいと思ったのさ。

そしたら、常連の一人がちょうど小売業で駄菓子を扱ってて。できたのがこのお店」


自然と私の話をする流れになって、口から出てきたのはやるせなさだった。

それを聞くと、爺さんは昔を懐かしむような目をこちらに向けてこう言った。

「ばあさんは聞き上手で、じっくり話を聞いた後、

常連によく言っていた言葉がある。

「自分のしたいことが見つからないなら、

まずは目の前や身の回りにいる、幸せにしたい人をさがしな。

きっと、その人の笑顔を作れたら、幸せだなと思えるから」てさ。

まずは、見栄もやっかみも不満も全部取っ払って、今に全力になればいい。

どうせ、天職だ、運命の人だって言ったって、出会うのは難しんだから。

それは、「あきらめ」じゃない。今するべきことを「明らかにした」ってことだ。

まだ、長い人生だ。開き直って、地道に頑張れば、いつかは本当にしたいことが見えてくるはずだよ。」


帰り着いた実家の照明がきらめいて見えたのはいつぶりだろうか。


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