第3話 temptation

何も考えたくない、一日になってしまった。

徹夜続きの頭がたたり仕事ではミスを連発し、上司には叱責、同僚からは侮蔑の目をもらう。

「Iターンだか、大企業組だか知らないが、最初の調子はどうした、ええぇ?

今いる場所はここだろうが。いい加減、あきらめてしゃきっとしろ。」


考えたくないのに、「いい加減、あきらめろ」そんな上司の最後の一言が、頭の中でぐるぐる回る。


夜で人通りの少ないはずなのに、帰路に響くのは自分以外の足音。赤いヒールとピンクのチュニック、隣に歩くのは光沢のはいったスーツに黒靴、後ろから追い越していった緑の蛍光ラインの入った運動靴と一瞬見えたスポーツ用黒タイツ…。


ふと、目に入ったのは、優雅にしっぽを揺らしながら歩いている黒猫だった。

何か面白いことがあったかのように、リズムよく揺れている様子が気になってたまらない。

どうせ、明日休みだし、

そんな些細な気持ちで興味そそる黒いしっぽを追いかけていた。

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