第2話 uneasy

カーテンを開けると、今日も、しっかりと朝日が昇っている。

光は鋭く、まぶしい。

空気はそんな太陽があるにも関わらず冷たく、思わず、身震いする。


起き掛けの布団はいつも通りたたみおえると、下では朝食が湯気を立てていた。

医療従事者の父親の分の食器はすでに片されており、すでに病院に出勤したという。

母親ととりとめのない会話を交わしながら、機械的に食事を口に運ぶ。


「次のニュースです。今年の春闘では、〇×商事で3年ぶりの3%の雇用賃上げ…」

親との会話が不意に止まる。

「いや~、すごいね!〇×商事は。有能な人材にはしっかり報酬があってしかるべきだよ!」だとか、「よし、今年こそ、いい企業に転職してやる!」だとか、親の心配を吹き飛ばせる「感嘆符」のついた言葉が言えたらどんなによかったことか。

いいたかったことは言葉にできなかった。

そんな私の様子を見て、母親はそれとなく話題そらしをしてくれた。


恙なく、交わす言葉は重みをもたず、軽やかで、されど、弾まず。

社会人として身についた「口角を上げる」「イントネーションを高く」などの技術は

この重苦しい空気を換えるには至らなかった。


朝食を食べおえて、手早く準備を済ませる。

「急ぐから、先にトイレ済ませるね」と母に声をかけると、

いつもの通り、「いっトイレ」と笑いながら返される。

親の心配そうな目線やこんなもやもやも一緒に流してしまえたら。


トイレの外からは、近くの小学校に通うのだろうか、子供たちの無邪気な挨拶が飛び交っている。どこかの子供が走っていて転んだのだろうか、親の怒号がとぶ。

「なんば、しよっとね!」と返す子供の「おにばばがきた~」。

おにばばは子供をとりそこなったようだ。走り出す小刻みな足音とともに、

「まったく~、あんこは。もう」という声が聞こえる。

その声には、心配と同時に安堵が隠れていた。


「昔の方がまだコミュ力とかあったのかもな」

そう無意識に、私はつぶやいていた。


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