終章 往く当てもない 旅の始まり
(37)虚ろ
「勝ったようだな」
あの一戦の後、辻杜先生の口から放たれたのはこの一言であった。淡々と、抑揚のない声。そこには
それだけに、現実への復帰はいとも
「おいおい、俺が寝てる間に終わっちまうなんてつまんねぇな」
事情を聴いた渡会の第一声に、その場にいた全員が
ちなみに、辻杜先生が率いていた第二隊の方も同日の昼には掃討作戦が完了し、夕刻には引き揚げてしまっていた。千騎規模の総攻撃に対して他の部員も奮戦し、一人も欠けることはなかった。ただ、やはりというかなんというか、辻杜先生の
あと、帰りがけに私と山ノ井が付き添い、内田の一族があった村の跡地を訪れた。焼け野原となっているそこには、残された
こうして様々なものが元通りとなってゆく中で、私達は日常へと戻ろうとするのであった。
「ほら、はよう起きんね。はいせんと、学校におくるぅよ」
「お早うございます、博貴」
「ったく、なんかまだだりーな」
「それじゃあ始めるぞ。起立」
「皇国の興廃この一戦に在り」
「そこ、なまけっとやったら、二周増やすぞ」
「うっわまじかよ。写させてくれよ」
「ですので、合成抵抗は十二オームになります」
「食材の旬の特徴は何か覚えている人」
「普通選挙を求める動きが広がりましたが、当時の政府は同時に共産主義、平等主義に対して警戒をしていました。そこで、一九二五年に普通選挙法と治安維持法を定め、二五歳以上の男子全てに選挙権を与えると同時に、危険な考えを持つ人を捕まえるようになりました」
「二条里君、大丈夫ですか」
「博貴、どうかされたのですか」
「にっちゃん、この本面白かったよ」
「おい、二条里、それ場所ちがわねぇか」
「二条里、起きてしまったことだ。気にするな」
夕刻。気が付けば私は表情を殺した辻杜先生の目の前にいた。同時に、恐ろしい程の圧力があり、背筋が全く前へと動かなくなってしまっていた。
「な、何のことですか」
「とぼけるな。お前は昨日、ハバリートを殺したことに強い
言葉が出ない。
ハバリートが私の剣でその胸を貫いた時、私は確かに、肉を割く感じと鼓動の静まりを覚えた。
「殺す、ということだ」
ハバリートの最後の言葉が頭の中で
「すぐに受け入れる必要はない。だが、相手がこちらの命を狙ってきた以上、それを奪ったところで後悔する必要もない」
先生の言うことも分かりはする。実際、私は一晩、自分にそう言い聞かせて
「と、言ったところで日常に戻れるようなら楽なんだがな。俺も未だにあの感覚だけは好きになれん。それに、この戦いが続く限りはその可能性がついて回る。だから、早目に決着させるより他にない」
先生の言葉に息を
「続く限りって、先生」
「ハバリートは
言われてみれば確かにそうである。もし最後の
「落ち込むのは仕方がない。ただ、それを引き
先生はそれ以上何も言わなかった。赤い
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