(36)戦し(せんし)
明朝。十二月半ばにしては薄気味悪いほどに暖かい日差しの下、私は頭に走る激痛と共に起床した。ゆっくりと身体を動かし、肉体と精神を
一見したところ、彼の肉体に異常はない。が、
感覚的に、技力は七割方回復しているのが分かる。思考もはっきりとしている。そうである以上、私は一つのことに意識を集中しなければならなかった。
どうやって、ハバリートに勝つか。
この至上命題に対する答えは、結局、一睡しても全く思い浮かばなかった。思えば当然の話であり、既に思いつく限りの秘策も、使える技令もアイテムも全て放ってしまっていたのである。人も足りない。それでも、今までの戦闘は薄氷を踏むような中での判定勝ちでしかなかったのである。一本を取るにはまだ、十分とは言えなかった。
とはいえ、希望が全くないわけではない。内田が使えるようになった雷技令の使い方
森の空気を全身に浴びる。明確な指針も
「お目覚めですか、二条里君」
声の主もまた、同じ
「内田さんはもうお目覚めでしたよ。昨晩、二条里君を見守られて、
そういう山ノ井も少々目の下の色が黒ずんでいる。それだけで私は
「決戦ですね」
「ああ。でも、戦力が全然足りない。内田が雷技令を使えるようになっても、渡会の色彩法との差し引きでゼロに近い。それに、水上も昨日の過負荷で戦闘は不可能に近いだろうし、土柄は
「二条里君らしくないですよ。そんな無理という
思わず笑ってしまった。
「そうだよな。無理と言ってる
「ですよ、二条里君らしくもない。それにまだ、私は戦えますよ」
山ノ井は
「そういえば二条里君、これを」
私が
「辻杜先生から預かってきました。もし、戦いが二日にわたるようなら使えと言われまして」
「そうか。なら、これは山ノ井が持ってた方がいいだろう。辻杜先生は山ノ井に渡したんだ。きっと、何か理由があってのことなんだろう」
「ええ。それは山ノ井さんがお持ちになるべきです」
塔の方から、こちらも落ち着いた表情で内田が近づいてくる。ひどく機嫌がいいようであるが、昨日の
「それは杖です。能力解放がされていない状態ですのでどのようなものかは分かりませんが、純粋な技令士である山ノ井さんがお持ちになった方がその真価を発揮できるのではないかと思います」
「でも、どう見てもこれピンだろ。それか、ゴルフでなんか地面に刺してるやつじゃないのか」
「基本的に技令士の武器は技令を込めなければその本体を現さないように細工されています。普段から武器を携行していてはあまりにも怪しまれますから。博貴の持っている司書の剣も普段はペーパーナイフにすぎないのと同じです」
「へぇ、じゃあ
「ええ。ですから、博貴も何か古いものをお持ちでしたら私に見せてください。
内田の一言に、私は一つだけ
夕刻、司書の塔の入り口に三人で立つ。その後ろには水上。結局、彼の回復は戦闘をするには十分ではなく、
「それにしても、博貴も無理をさせますね。戦闘行為のできない水上さんを参加させるなど」
「無理は承知だが、空中戦を制するにはなあ」
「それに、俺はにっちゃんに自分で行くって言ったからいいんだ。戦えないけど、俺も行きたいんだ」
水上の
周囲が風で覆われる。圧縮された空気が全身を圧迫する。時々刻々と近づいてくる影は、やがて実体となり、巨像となり、ハバリートとなった。
「四人か。一思いに消えるがいい。正方陣」
ハバリートが大地に光陣を展開する。その瞬間、水上が備えていた技令を放つ。
「
水上の言葉に
「
内田の剣筋を紅の太陽が見上げる。鋭い一閃は、それでも、ハバリートを
「吹きすさぶ風よ、その身を鳴らし、
「来たるべき敵より我々を
山ノ井が大地より攻め、私が大地で守る。それを高みより
「そのような一重の陣で我が光陣を防げるとでも思うてか」
風に煽られつつも内田をあしらうハバリート。だが、その直下において山ノ井は静かに一番星を見据えた。
「杖よ、その
四色の光が周囲を覆う。
「全ての
杖が緑の光を帯び、前方一帯に半円の壁ができる。その光と光陣の輝きによってハバリートの陣を押し返す。
天上での戦いも一進一退。戦力が向上したのか、内田はハバリートと渡り合う。が、元々の力量の差が互角、優勢という状況を
「水上、召喚はもう一体行けるか」
「行けるけど、俺の技力だとそんなに持たない。召喚は良いんだけど、維持が」
「タイミングを見て、二十秒、いや、十秒でいい。それだけあれば手が届く。だから」
水上が
「しかし、二条里君、向こうも技力は完全ではないようですね」
「ああ。だからこそ、
山ノ井の
「我が
先手は山ノ井。空に向かって一筋の雲が貫く。冷気の
「
「流星剣」
そのハバリートを内田は背後から襲う。その燃え盛る炎を光の
「
「おのれ
異なる三つの力が交わる一点。そこで発動される技令。本来であればいずれも必殺である攻撃を前にしてなお、ハバリートは攻撃に転じる。油断ではなく、身を削る一撃。その一撃に、私も光陣を三重に
「ダブル・カッター」
速度で内田を圧倒し、力で
地上に、一人足りないことに気付かず。
「我が一撃に加護を。
山ノ井が全ての思いをナイフにぶつける。突き立てられた
それを、
「目覚めよ、勇者の光。コロンの剣」
全てが転じた。内田の号令一過、突き立てられたナイフが剣へと変わる。二ヶ月前、岩波と
朝の作戦会議、杖が話題に上った直後、私はもう一つの武器が頭に浮かんだ。
「内田、もしかしてこれもそうなのか」
差し出したのは一本の
だが、辻杜先生は渡すと同時に特定の使い方しかできないと言っていた。そして、似たような形で山ノ井に杖を渡したのである。
「これは、勇者の」
見るなり、内田の顔色が変わった。そして夕刻までの間、いかにこの剣を有効に使うかが作戦立案の
地上に向かって山ノ井が風技令を放つ。その遥か彼方で、一筋の光が
「我が
光の支配。
「ぐ、ぬ」
声が肉の合間より零れる。よもや、ハバリートの顔は半分もない。腕と
「この、そんか、い、では、よもや」
「博貴、離れてください」
足が
「貴様は技令士でも、まだ、戦士ではない。覚えておけ」
そう言うと、ハバリートは私の持つ
「これが、殺す、ということだ」
その
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