(15)戦の中の光
階下に、老婆が待っていた。
「中央の塔へと参ろうかの」
足音一つさせず、老婆は確りとした足取りで進む。先程までの暗さはこの塔の中にはなく、穏やかな光が包み込んでいた。
「一つ、いいでしょうか」
「この塔の光かの」
老婆の鋭い推理に息を呑む。
「この塔は受験者の開花した技力によって、その様態を変える。あの内田という少女の時には、風が強く吹いていたの。しかし、このような光は感じたことはないの」
大きな門が、眼前に現れる。
「行くがよい。お主なら容易い試験かも知れんがの」
老婆の言葉に押され、私は塔の中へと入った。
中は阿鼻叫喚の渦中であった。
多くの人々が剣を交え、弓折れ、矢尽き、倒れる。倒れてもなお、人々は
互いに腹部を貫きあった
川は死体で埋め尽くされ、血は流れる場所もなく、そこで湖を成す。
何を成すべきなのかも分からない。何と戦うべきなのかも分からない。どのように戦うのかも分からない。むしろ、なぜ、戦うのかが分からないのである。
その時、私は静かに剣をその場に刺した。目を見開き、その光景全てを収める。私は覚悟したのである。この空間を私は受け入れなければならない。戦うと決めた以上、私はこの空間から目を背けることはできないのである。そして、私は一つだけイメージを具体化した。この空間にないものを作ると決めて。
しかし、その中の数人はゆっくりと立ち上がると、涙を流しながら
「合格じゃな」
笑顔を見ていると、私は司書の塔の入り口へと戻ってきていた。目の前には老婆と、内田が並んでいる。老婆の目はよく見るとひどく澄んでおり、私をじっくりと見つめていた。
「中央の塔の試練は、あの戦を収めること。普通の司書であれば、あの空間にある召喚体全てを撃滅し、それで終わらせる。しかし、お主はそこに希望と明日を与えることで収めた。完全な回答じゃ」
老婆はそう言うと、なにやら言葉を
「汝、二条里博貴を第五七二代司書に任命する。その
目の前に浮かぶ司書の剣を手に取る。これもまた軽い剣であり、しかし、穏やかに技力を
「さて、二条里の司書の試験は終わったがの、一つだけ、
「なんでしょうか」
「お主にではない。内田であったな、お主」
そう言うと、老婆は内田の方を向き、静かな口調で訊ねた。
「お主、両親をここ二月の間に失っておるな。なぜ、その際に、司書の塔へと来ず、自ら危険な俗世へと向かったのじゃ」
言葉を失う。老婆の言葉に、偽りがないことはこの一日で分かりきっていることだ。そうであれば、老婆の一言が真実であるならば、内田は・・・・・・。
「はい。両親をレデトールの手の者に殺されました。ですから、その仇を討つために、私は司書の塔へと戻りませんでした。そして、これからも辻杜氏の下で戦うつもりです」
「そうか。意思があるのであれば、止めるようなことはせぬ。ただ、何かあったら、すぐに戻ってくるのじゃぞ」
老婆はそう言うと、静かに微笑んだ。その微笑みを背に、私達は司書の塔を後にした。
外は既に、夕闇が覆おうとしている。その中を、私達は無言で帰途に就いた。
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