第24話 竹石 徹
その後も、俺と玲は、2~3週間に一回のペースで逢った。
日帰り温泉の個室で、ラブホテルで、そして、
カラオケ屋だと、仕事の退勤時に「ちょっと、歌おっか」なんてやりとりがショートメールで行われるものの、入室すると、最初に世間話や近況を報告し合って、結局は、一曲も歌うことなくモニタの青い灯りだけの部屋で座位で交わった。
逢おうと誘うのはいつも俺の方だったが、その前に、「今、何してた?」「今度の休みの日の予定は?」などと俺が誘いたくなるようにショートメールで尋ねてくるのはいつも玲の方だった。
季節が冬になり、本城市も30センチくらいの積雪となった。テレビの気象予報士の話では、北陸・日本海側の東北地方は記録的な大雪になる見込みであるとのことだった。
そんなある平日の夕方、風呂上がりの缶ビールを飲みながら、ローカルニュース番組を観ていたら、玲の旦那さんの特集コーナーが前触れなく始まった。テレビで旦那さんの姿を見るのはこれで確か三回目のはずだ。
竹石
名前を改めて知って、あしたのジョーの
竹石さんは、しばらく、民間の建設コンサルに勤務していたが、科技庁所管の防災科学研究所に転職。県内のある地方都市に設立された災害実験研究所に配属された。研究所の宿舎は普通の民家で、そこに独り住まいだった。
映像では、
そういえば、いつだったか、玲が、その宿舎に引っ越すための日常生活に必要なものをいろいろと取り揃えて持たせるのが大変だったと言っていた。「自分ではなんも準備できないから、あたしがやってあげないとなの」って確か言っていた。基本、山男な故に、生活に必要な物は旦那さんにとってはごく限られていて、それ以外は気が付かないことが多いのだろう。
次の映像では、雪山でヘルメット姿の竹石さんが写り、雪崩が起きやすい場所や条件、雪崩が起きたときにどうすればよいのかをレクチャーして短い特集コーナーは終わった。素人の俺でもわかりやすい説明だったし、温厚な性格がその喋りからも伺えた。
おそらく、当県だけでなく、いろいろな地方公共団体からも調査、報告の依頼やメディアからのオファーがきっとあるんだろう。まさに、全国を股に掛けた仕事だ。
そういえば、玲はこうもぼやいていた。
「ごくたまにジジイが家に居るときは、ミッションを与えてあげないとずっと一人で好きな事しかしていないからダメなの。①芝生刈り、②網戸の修理、③プランターの土を買う、④帰りにスイミングに子どもを迎えに行く、わかった?ってミッションを与えるの」
俺はその時、苦笑いしながら聞いたのだが、テレビの特集コーナーを見終わった俺には笑えない話だと思った。
温厚な人柄。派手さやサプライズ感は全くないながら、実直で、いろんなことに真面目に取り組む人なんだろう、と俺は好感をもった。
しかし、そんな彼を玲はジジイと呼び、使えない男と評し、俺と逢瀬を繰り返すことで裏切っている。そして、事情を知っている俺もまた、その裏切りに加担しているんだと、すっかりぬるくなったビールを口の中に放り込みながら思った。
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