第18話 人差し指の横腹

 あまり考えることなく選んで入った部屋は、思っていたよりも広い間取りだったので、もしかして、VIPの部屋だったのかもしれない。

 そんなことだけを少し思って、あとはもう、玲とこうなる歓びを態度で示すだけだった。

 俺は白くて広い部屋で立ったまま玲を抱きしめた。見た目以上に玲の躰は細くて、背中に回した両の手がもう一周できるような気さえした。お互いの躰の感触と圧を十分に感じた抱擁の後に、唇を合わせると、すぐに玲の舌が俺の口の中に入ってきて俺の舌を時計と反対周りにぐるぐるとなぞり始めたから俺は舌をじっとさせてしばらく玲の舌の感触を味わった。

 唇を離して玲の右の首に這わせると、玲は俺の背中に回していた右腕を俺の首元に移動させた。見て確かめなくてもわかる。玲は自分の人差し指の横腹を舐めている。それは玲が感じている時の仕草だ。


「シャワー、する?」


「うん…どっちでもいいよ」


 人差し指を口元から離さないままそう答える玲により一層、俺は興奮した。どっちでもいい、は、早く抱いてほしい、という答えだからだ。


 抱くよ、の返答の代わりに、這わせていた舌を玲の右耳に移動させる。くすぐったい一歩手前のところで愛撫を繰り返すと、玲の方から顔を放して再び俺の口の中に舌を侵入させてくる。さっきの規則正しい動きとは正反対に、もっと歓びが欲しい旨の滅茶苦茶な動きに変わる。もちろん、あげるに決まっている。


「玲、こうしたかった」


 躰を離した俺は玲のブラウスのボタンを上から順番に外していって脱がせると、きれいな刺繍が施されたオフホワイトのブラが目の前に現れた。


「前よりもずっとちいさくなったの」


 谷間もなければ、膨らみすらもブラの演出ではないかと思われるような小さな胸を玲が一応、両手で隠す。


「大きさじゃないよ。どう感じるか、だ」


 背中に回した左手ひとつでブラのホックを外して、鼻でブラを押し上げながらすぐに玲の乳首に吸い付く。玲は俺の後ろ頭を右腕で抱え込みながら今度は右手の人差し指を自分の口元に持っていった、はずだ。

 俺の口の中に収まった小さな乳首は既に固くなっていて、俺の舌の動きに抵抗するかのようにさらにその身を硬くしていった。


「見せて」


 顔を離してブラを取ると、脂肪なのか筋肉なのか見分けが付かない膨らみの上に、それでも、昔のままの乳輪と乳首があった。


「やっぱり、オレンジ色だ」


 昔、玲を初めて抱いた日、ブラを取る前に「乳首は何色?」と何気なく尋ねると「オレンジ」とすぐに答えが返った来たことを思い出した。


 胸の膨らみは確かに小さくはなったものの、オレンジ色の小さな乳輪と乳首がそのままだったことに嬉しさを感じた。こんなことで嬉しさを感じるものなのか、とまたひとつ女体の愉しみを見つけたことを嬉しく思った。


「後ろ見せて」


 玲の躰の向きを変えてから、両手の人差し指と中指ですっかり硬くなった乳首を弄びながら姿見のある場所まで移動させる。

 俺は玲の左の鎖骨に唇を這わせながら、姿見に写った目を瞑った玲の顔とオレンジ色の乳輪と乳首をこっそりと盗み見する。日に焼けた俺の太い指が行ったり来たりして見え隠れするオレンジ色がさらに俺を興奮させた。


「玲、綺麗だよ」


 俺がそう言っても、玲は眼を閉じたまま何も言わない。その代わり、玲は左腕を上に挙げて俺の後ろ頭を抱え、右手を後ろ手に俺の両足の間に潜り込ませる。姿見はまるでビデオカメラのように俺たちの営みを克明に写し、記録しているかのようだ、と思った。

 しかし、1枚たりともまだ脱いでいない俺の股間の変化を玲にまだ味合わせるわけにはいかない。俺は胸から手を離して玲のスカートのホックとジッパーを外すと、そこに現れたのは細い布切れが真ん中にある小さなお尻だった。


「Tバック?」


「そ。仕事柄ね」


「仕事柄、がTバック、なのか?」


 腰の位置にある、Tの字の交差点にある刺繍をさすって眺めながら俺はそう尋ねた。


「ほら、ヘルパーのユニフォームってジャージでしょ。普通のパンツだとうっすらジャージの上からラインがわかるじゃない?あれ、あたし嫌なの」


「なるほど、それで、仕事柄か」


 スカートをすっかり脱がしてしゃがみこんだ俺が小さくて柔らかいお尻に唇を這わせると、頼まなくても玲は両足を開いてお尻を突き出し、姿見に両手を付いた。

 薄くて細い布切れの端から少し毛が覗いていたがそれをも口の中に飲み込んでしゃぶりつく。俺の唾液なのかそれとも玲からあふれ出した蜜なのか、透明な雫が腿裏を伝っているのを俺は脇目で確認した。

 Tバックをゆっくりと下に降ろすと、玲のピンク色の肝心なところが黙ったまま俺の眼に差し出された。それを守るはずの黒い茂みは手をこまねいたまま向こう岸でひっそりと生えたままだ。

 そんなに見ないで、なんて無粋なことは玲は言わない。自分の欲望に忠実に黙って差し出すのが玲の流儀なんだろうと俺は思っている。だから、俺も、特に煽るようなことは言わずに黙っていただく。

 窪みの線に沿って唇を這わせると、すぐに俺の鼻が濡れたのがわかった。ビクンビクンと玲の躰が反応するのは、玲の一番敏感な丘に俺の硬い鼻筋が触れた時とわかったから、俺は自分の鼻と唇と、そして舌で玲の窪みを何度も往復させる。玲も俺の動きに合わせて腰を前後にゆっくりと動かす。


 こうしている間、玲は感じながらも声を出して喘いだりしない女だ。元々、オーラルセックスでは逝かないのだが、目を瞑って、自分がされている場所を、自分がされていることに集中して歓びを静かに味わっている。だけども、今されていることよりももっと歓びを感じたくなったんだろう、姿見から手を離して俺の方に向き直り、俺に立つように促してキスを求めてきた。玲は今度は舌先を尖らせて俺の下唇を左右に何度も往復させたかと思うと、俺の上の歯茎に舌先を入れて左右に動かす。俺は、その舌の動きを頭の中で反芻させながら次への儀式に期待をしてしまう。


 玲は、俺が着ていたポロシャツをたくしあげて脱がせ、俺の右の乳首を舌で転がしながら、ズボンのベルトを外し、ジッパーを降ろして脱がせる。今度は、左の乳首をなぞるように舐めながら、トランクスブリーフの下から右手を差し入れて鼠径部で迷った振りをした後に俺のすっかり硬くなった性器に辿り着いて静かに握る。


「どうした?すっかり濡れているけど、逝ったの?」


 乳首から口を離して、下からいたずらっ子のように覗き込む目つきをしながら俺の様子を伺う玲に、一言も返せない快感を感じている俺だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る