五月の悪食

五月の悪食


 一日中窓の奥に広がる世界だけを眺めていた。

 そこから広がる世界はまるで、私だけの箱庭だ。

 決められた範囲の、決められた日常のみが見える。

 

 とかく今は、日常はまるで抑揚のない音楽のようだった。

 学者気取りの講釈を吐露するつもりはない。

 ただ単に、ここ最近――「どうでもいい」と、日常を投げだす悪癖が、私の中で日常と化している。

 

 忙しい毎日だけに日常を感じていた私だからだろうか。

 不意に舞い降りた退屈が、胸中から溢れ出している。

 

 新しくできたこの時間に、何かを始める――しかし、新しさに新しさを重ねることが、正しいとは思えない。

 

 生まれ堕ちた時間に餌として与えるのは、箱庭の景色だけだ。

 悪食である空虚な時間は、それを豪勢な食事であるかのように喰らう。

 ただし、時間は、食事をするための器具――ナイフ、ホーク、箸、なんでもいい――それらを使わずに、ただ口で直接、それらを喰らう。

 そこに規則はなく――模範である必要もない。

 

 不意にその景色に、1羽の鳥が舞い降りた。

 鳥はいつまでも箱庭の中心――近所の家の屋根の上――にずっといる。

 そこで何をしているかというと――何もしていないのだ。

 ただそこで、鳥も空虚を喰らっている。

 

 私の心の触手が、不意にその鳥に伸ばされた。

 何か特別なことをする訳ではない。

 ただ単に、鳥に名前を付けようと考えていた。

 

 そこに何もない、時間だけがある状況。

 これは何かに似ている。

 ――瞑想だ――迷走?いや、瞑想であるはず。

 

 鳥の名前は――「メイ」にしよう。 

 

 ちよちよと走り回らないその鳥らしからぬ姿。

 空虚な時間をただ喰らうその姿。

 

 ――そろそろ私も時間への餌やりを終えよう。


 そう思い、窓辺に用意された椅子から立ち上がった。

 部屋の中を眺めていると、視線の先にカレンダーが1つ。

 

 そうか、もうじき――5月も終わる。

 

*******************************

後書き


 コロナウイルス、収まりつつありますね。

 皆さんは、どうお過ごしでしょうか。

 退屈に侵されてはいませんか?

 退屈を、無駄で侵してはいませんか?

 

 この機会にどうでもいい詩集を更新する当たり、私もその一人かも。

 どちらでもいいですが、侵す側でありたいものです。


 

 

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