第135話 商工会議設立です!(1)

 アルドーラ公国の大公との話合いが終わり、衛星都市スメラギの総督府から派遣された代官が暮らしていた建物から出ると――。


「ずいぶんと話し込んでいたようですね」

「…………そうだな」


 私の問いかけにレイルさんは、疲れた様子で頷きながらも同意してきた。

 太陽は建物に遮られているからなのか見えないけど、建物の影がかなり長くなっている事から、もうお昼を超えて夕方近いはず。

 そう考えるとお腹が「くーっ」と催促の音を鳴らした。


「どこからで食べていくか? もう食糧の心配もないんだろう? それに時には息抜きをした方がいいんじゃないのか? 子供達の世話ばかりだと疲れるだろう?」


 レイルさんが私の事を心配して言ってきてくれるのは分かるけど、私にとっては子供達と一緒に食べる方が落ち着く。

 純粋に私の事を必要としてくれてるような感じがするし……。

 それに比べたら私が作る白色魔宝石や知識や血筋にだけ興味を示す人は、少し嫌だなと思ったりする。


「いいえ、食事はみなさんで摂った方がいいと思いますから、市場で何か購入していきましょう」

「……そうか。ならいいが……」


 私の言葉に、どこか満足してなさそうな表情でレイルさんは、しぶしぶと言った表情で頷くと私の前を歩きだした。

 いつもと様子が違うレイルさんの後ろ姿を見ながら私は首を傾げた後に、あとを追いかけた。




 ――翌日、私は衛星都市スメラギの総督府から来た代官が使っていた建物の一室で、書類に目を通していた。


 扉が何度かノックされ私が「どうぞ」と伝えると、レイルさんが入室してくる。

 

「町の有力者たちが集まってきているぞ?」

「そうですか……本当は、もっと会談までには日数が掛かると思っていたのですけど……アルドーラ公国の大公が私と接触したのを知って利権確保の為、早めに動いたと見た方がいいのでしょうか? それとも……」

「――は、早めに有力者が集まるなら、それに越したことはないんじゃないのか?」


 レイルさんの言葉に、私は思わず考えてしまう。

 アルドーラ公国の大公であるフィンデル大公が商談のために来られたのは昨日の事で、しかも人数は少なくお忍びといった感じですらある。

 下手に国の立て直しが出来るという情報が諸外国に流れると混乱を引き起こす可能性があるからだけど……。

 だからこそ、アルドーラ公国のフィンデル大公が来られた事については、お忍びと言うこともあるけど腐っても元大国・アルドーラ公国の王がこんな小さな町に来ているなんて誰も思わないと思ったから特に情報規制などは行っていなかった。


 第一、私が町を武力で落としてから何日経ってると思うの? という感じで……。

 本来なら私が町を落して、スメラギ総督府の兵士が撤退した段階で、先見ある人なら接触してきてもおかしくないと思っていた。

 その接触が、まったく無くアルドーラ公国のフィンデル大公が来られてから次の日には、会談が決まるなんて、どう考えても変だとしか思えない。

 

 だって、どんなに迅速な商会であっても意思決定や今後の商会運営などを踏まえて数日は考える時間が必要だと思う。

 そして有力者が一人だけなら、まだ話しは分かる。

 一か八かを取るそんな町の有力者が一人いても問題ないから。

 でも、それが全員というのは……どうも腑に落ちない。


 でも早い段階で食糧の配布を含めた権利確立は最重要課題だから、早ければ早いだけいいと思う。

 そうすると、あまりネガティブに考えるのも良くないのかな?


 正直なところ情報が少なすぎて正確な判断がつかない。

 レイルさんにも余計な事を聞く訳にはいかないし。

 まぁ、そのへんは……。


「そうですね。とりあえず参加して頂いた方をお待たせしても仕方ありませんから」


 レイルさんは、私の言葉に「そうだな」と頷いてくる。

 するとレイルさんはすぐに歩き出し――。

 何か……レイルさんは私から距離を置いている? よくは分からないけど、そんな感じを受ける。


 でも……。

 私の気のせいなだけかもしれないし……。


「レイルさん」


 私の呼びかけにレイルさんは、すぐに振り返り「ど、どど、どうしたんだ?」と応えてくる。

 少し慌てた様子に私は微笑み返す。

 

「レイルさん、何か私に言ってない事とかありますか?」


 私の言葉にレイルさんは、一瞬視線を周囲に向けたあとに、「とくに隠してることはない」と呟いてきたけど……。  

 でも、あまり突っ込ん話をする必要もないかな――。


 私は両開きの部屋――昨日、アルドーラ公国のフィンデル大公と話しをした部屋へと入る。

 そこには10人ほどの人が座っていた。



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