第136話 商工会議設立です!(2)

 私が部屋に入ると、席についていたミトンの町の有力者と思われる方々が一斉に私に向けて視線を向けてきた。

 彼らの視線を受け止めながら私はスカートの裾を掴むと、シュトロハイム公爵家でアプリコット女史より習ったカーテシーを披露した後、ゆっくりと私が座る場所――上座に向かう。


 席につきながら私は、集まった一人一人へと視線を巡らす。

 やはり、中世の時代と言うこともあり、女性よりも男性の方が多い。

 男性8人に女性2人と言ったところ。

 女性の一人はミューラさんで、私を見て驚いた表情でいる。

 もう一人は、赤い髪の女性で男性から見たら魅惑的に思える肢体をしていて、ウェーブしている長い髪をキレイに纏め上げている。


 男性は、何と言うか皆、肉体的に逞しいとかそんな感じ? すごく横に広がっていて立派な髭を蓄えている事からドワーフなのかな? と思ってしまう。

 でも、私はドワーフなどの亜人がこの世界にいるとは、貴族として習い事を習った時にはアプリコット女史より聞いたことがない。

 

「今日は、お忙しい中、お集まり頂きましてありがとうございます」


 部屋の中で、ずっと沈黙していた面々は、静かに私の話しを聞いている。

 普通なら何か聞かれるはずなんだけど……。

 まぁ静かに聞いていてくれるなら、それに越したことはないけど……。


「まず、自己紹介をさせて頂きます。私は、ユウティーシア・フォン・シュトロハイムと申します。シュトロハイムという家名から、お気づきになられた方もいらっしゃると思われますが、私の実家はリースノット王国のシュトロハイム公爵家です」


 私は一度、口を閉じて会議室内の面々に視線を向ける。

 だけど……誰もが静かに頷くだけで質問をしてきようとしない。

 普通なら、隣国と言っても海を隔てた国の公爵家令嬢が何をするのかと疑問に思って質問を投げかけてくるはず……だけど、彼らはまるで知っていたかとばかりに話の続きを促してきているよう――。


「ユウティーシア、町の有力者には君がリースノット王国の王家ゆかりの公爵家令嬢と言うことは前もって話してある」


 私の疑問に答えてきたのはレイルさん。

 

「そ、そうですか……」


 私は首を傾げながら頷く。

 でも、それにしても……彼らの私を見る目は、どこか私じゃない先を見てるような気がするんだけど……。


「今回の趣旨ですが、現在はミトンの町の状況は海洋国家ルグニカの各衛星都市との海路陸路ともに交易が停止してる状況にあります。そして、その事態の改善をするために皆様に集まって頂きました」


 すると私の話しを聞いた青い髪の少し小太りの男性が、「大きな町との貿易が停止はしているが、近くの村々から購入は出来ているぞ?」と、話しかけてくる。

 

「それは、正規の通常の価格で購入出来ているということですか?」

「それは……」


 私の問いかけに男性は沈黙してしまう。

 そう、購入は出来るかも知れないけど……問題は、人口1万人近い町の食糧を支えられるほどの生産が出来ているかどうか。


 ミトンの町周辺の土壌は塩分が多く含まれていて作物が育ちにくいと報告を受けている。

 それはつまり農業が出来る場所が限られてしまうと言うこと。

 なら1万人近い人口を支えられる農業を営む事は不可能。


 だからこそ、ミトンの町から歩いて一週間ほどの距離にある衛星都市スメラギから内陸部で取れた作物を購入していたと。


 そしてミトンの町は、リースノット王国や、軍事大国ヴァルキリアスの貿易商船が、帝政国に向かう際に、立ち寄り場所でもある。

 立ち寄った際に落とす外貨が町を支えていた。

 現在は、入港する船も少なく外貨取得が減っていると聞いている。


「意地悪な言い方をしてしまい申し訳ありません。ですが、言葉に詰まられたということは、多少色を付けて購入されていらっしゃるのですよね?」


 私のい問いかけに、小太りな男性は静かに頷いてくる。


「そこで、皆様に見て頂きたいものがあります」


 私は、レイルさんの方を見る。

 レイルさんは察してくれたのか頷くとテーブルの上に布で包まれたモノを置いたあと、ゆっくりと広げていく。

 俗にいう風呂敷と言ったところだけど、それは今はいいとしておきましょう。

 テーブルの上に置かれた布で包まれた中から出てきたのは数十枚の羊皮紙。

 羊皮紙を見た面々は首を傾げながら私を見てくる。

 私は彼らに説明するために口を開き「これは株式証券と言うものになります。現在、この町は多くの有力者が別々に力を持った状態です。それですと、何かあった時に連携を取るのが難しいと考えています。そこで……株式会社を作る事を提案したいと思います」と、私は話した。

 すると「カブシキカイシャってなんだ?」という声が聞えてきた。

 


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