第134話 商工会議を設立しましょう!(24)

 私は、頷いてきたフィンデル大公の様子から、国内の情勢は芳しくないと察する。

 大公自らが、動いたのが何よりの証拠とも言えるから。。

 

「うむ。ユウティーシア令嬢の察する通り、我が国の置かれた状況は極めて危険な状況と言っても間違いではない。隣国のセイレーン連邦やリースノット王国、軍事大国ヴァルキリアスとの問題も踏まえてな」

「そうですか……」


 思ったよりも深刻な状況なのが、フィンデル大公の一言で察する事が出来る。

 国家間の影響力というのは一概には言えないけど、地球でも古来より食糧や資源、水などが戦争の主な要因となっている。

 近代化されてからは、エネルギー資源が戦争になったりすることもある。

 第一次世界恐慌で各国がブロック経済政策をおこなっていた時に、アメリカは植民地が無かった。

 そこで日本を植民地化しようとして、原油の輸入封鎖を行い日本を干上がらせようとした。

 もちろん、近代化された国家というのは原油を燃やし火力発電で電気を生産している。

 その原油を止められたら、近代国家というのは経済的にも国家防衛的にも立ち行かなくなる。

 そして黒幕であるアメリカに交渉した結果、日本に植民地になるようにと提示してきたのがハルノートであり、飲まないなら原油の輸入封鎖を解かないとアメリカに言われたのだ。

 もはや、それは国家存亡の危機とも言える。

 だからこそ、国家の存亡をかけて日本は自衛のために戦争をしたに過ぎない。

 

 そして、それはアルドーラ公国にも言える。

 人間と言うのは塩が無ければ生きてはいけない。

 つまり、塩の輸入を止められれば人の営みを行えないのだ。

 今までは、塩の輸入をリースノット王国と良好な関係を築けていたから安定して輸入できていたけど、現在はスペンサーの独断により良好とは言い難い状況になっている。

 

 さらには、国力の問題もある。

 私が生れる前までは、アルドーラ公国の国力はリースノット王国の10倍以上の差が存在しており、軍事大国ヴァルキリアスと国境を接しているリースノット王国にとっては、無くてはならない大国であった。

 それが近年では軍事力が逆転したことで守ってもらう必要性がなくなり、自国内で食糧が生産出来る事になったことで、アルドーラ公国のリースノット王国内における価値が急激に低下している。


 それは何を示すのかと言うと、塩よりも稼げる魔道具生産にシェアを置くという方向転換を行うことも可能と言うこと。

 さらに、塩の希少性を上げることでより多くの外貨や物資・資源をアルドーラ公国から引き出す事もできることに繋がる。


 現代の地球では避難されるかも知れないけど、情報伝達の速度と精度が極めて低く工作が容易なこの世界では、自国の経済発展と軍事力強化に対して他国を食い物にしても何も言われないし、逆に王家を支持する基盤にもなり得る。


 つまり……アルドーラ公国の置かれた現状というのは、沈みかけている船であり、貴族達や商人がネズミが逃げ出すがごとく、他国と内通し国外へ逃げてる状況と言うところなのかもしれない。

 そうでも無ければ、アルドーラ公国のフィンデル大公が、私が手紙を妖精ブラウニーに託して送り出したあと、数日で訪問するわけがないから。


「わかりました。それでは、これからよろしくお願いします」

「うむ、よろしく頼む」


 私は、椅子から立ち上がり右手を差し出す。

 もちろん握手の為であり、相手――フィンデル大公も理解してくださっているのか握ってきてくれる。

 一応、これで商談は成立と言ったところかな……。

 



 ――1時間後、私とレイルさんはアルドーラ公国のフィンデル大公一行が、転移魔法師の魔法師で帰る姿を見送っていた。


「それでは、ユウティーシア嬢。なるべく早いうちに、こちらは体制を整えるがゆえ」

「はい、私の方もミトンの町の意見を統一しておきますのでお互いに急ぐ事に致しましょう」


 私の答えに満足したのかフィンデル大公は頷くと、私達の姿の前から姿を消した。


「はぁー……」


 フィンデル大公たちが消えたあと、第一声に聞こえたのはレイルさんの溜息。


「ティア、お前……よくあんな風に堂々と話ができたな?」

「はい、以前からやっていましたから!」


 私は思いを巡らせる。

 前世では、営業をしていたときもあった。

 こんな商品誰が買うの? と思うくらいの商品であっても商品を売り込んでいた。

 それと比べたらニーズが分かりやすい今の商談の方がずっと楽。

「だって、商談の基本は需要と供給ですし相手の懐を察する事も必要ですしアルドーラ公国の事情も、なんとなく察する事はできましたし」

「なるほどな……」


 レイルさんが、額に手を当てながら小さな溜息を共に「しかし……これでは……」と呟いているけど、きっと疲れているんでしょう。

 

「それよりも! これから大変ですよ? ミトンの町に住んでいらっしゃる有力者の方を説得して商会を販促路を作らないといけないのですから!」

「そっちの方が楽なんじゃないのか?」


 私はレイルさんの言葉に「そんな事はありません! 物資の配布そして利権の調整などやる事は山のようにあるんです!」と答える。

 たぶんだけど、アルドーラ公国は、すでに側近に話は通していると思う。

 おそらく数日中には、私が同行させたブラウニーさんがアルドーラ公国からの手紙を持って戻ってくるはず。

 

「時間がないのは、こちらのほうですね……」

「そうか……はぁ、どうして一介の兵士の俺がこんなことになっているんだか――」

「仕方ないです。だってレイルさんは、もう私の護衛のような立ち位置ですし!」

「そうだな……」


 私の言葉にレイルさんは、力なく頷いてきてくれた。


   

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