第343話

 宴が進むにつれ、アルコールが彼女らエルフの体内に入り少しずつ理性という名の壁を溶かしていく。

 

「やはり――」


 俺は緑色の青汁アルコールに一口だけ口をつける。

 味としては、青汁にアルコールを足したような味でお酒飲みなら誰もが大激怒する味と言って過言ではないだろう。


「マズイな……」

「聖人しゃまー……何かマズイ事でもあったんですか?」


 俺に近づいて頬ずりしてくるサマラが横にはいるが……サマラだけではなくエルフの女性たちは全員が、執拗に体を触ってきようとする。

 まったく……これはあれだな。

 

 お酒を飲んだら人には絡まずには居られなくなる酒飲み特有の病気。

 アルコール病とでも名付けるとしよう。

 

「いや……これだけ魅力的な美人に囲まれると俺も自制するのが大変だなと思っただけだ」


 実際、エルフの女性は見た目もキレイだし装いもおしとやかで料理以外は特に不満はない。

 そう、料理以外には不満はない――。

 料理以外はな!


 大事な事だから2度、俺は心の中で突っ込みを入れていた。


「そういえば聖人様は、もう族長に会われたのですか?」


 頬を薄らと赤らめたエイフィルが、サマラを押しのけて横にすわってくると葉の天ぷらのようなモノを箸でつかむと差し出してくる。


「あー……、俺もうお腹いっぱ……いや、なんでもない――頂こうか」


 話の途中で、言葉を撤回する。

 エイフィルが端正な眉をひそめて、大きな瞳を涙で潤ませていたから。

 さすがにそんな捨てられた子犬のような表情を見せられて食べられないとは言えない。 

 

「それにしても」


 俺は、エイフィルに差し出された葉を咀嚼しながら、とても素材の味を生かした料理だなと食べながら内心溜息をつく。

 すると――。「そういえば、聖人様は多くの従者を連れていると、他の人達からお聞きいたしまた」と、メルンが話かけてきた。


「従者? リネラスたちの事か? あいつらは――」


 俺は、そこで一度言葉を区切り――。

 これまでの道を思い出す。

 フィンデイカ村での出来事、カレイドスコープでの出来事、そして花の都ローランでの出来事と。


「そうだな、大切な――」 

「大切な?」

「いや……何でもない。ところで、どうしてそんな事を聞いてくるんだ?」


 メルンは、俺の問いかけに「え! そ、そんなこと――」と、呟くと顔を伏せた後に、指先をせわしなく動かしている。

 まったく何を聞きたいのか分からないな。


「そういえば、ユウマさん。族長は、何か言っていましたか? 私達で手伝えるような事があれば手伝いますが?」

「いや、特に手伝ってもらうような事は、今は特にないなが――」


 サマラは、肩を落としながら「そ、そうですか……」と、呟いてしまっているが、エルフの問題を何とかしてほしいようにエリンフィートから頼まれていると言っても、現状では解決案が有る訳でもないし、悪戯に不安を煽る必要性もないからな。

 余計な事は言わないほうがいいだろう。


「一応、俺たちは、エリンフィートから滞在許可はもらったぞ?」

「ユウマさんは、問題ありませんけど、他の従者――お仲間の方もですか?」


 エイフィルは信じられないと言った表情で俺に訪ねてくる。


「エイフィル、族長がユウマさんと、その他の方々を客人とみなしたのでしたら、私達の客人でもあります」

「サマラ様……わかりました」


 エイフィルは、しぶしぶサマラの言葉に頷いている。


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