第304話
イノンは、【移動式冒険者ギルド宿屋】を荒野と化したエルフガーデンへと続く渓谷のエルブンガストで出現させると、馬が繋がれた帆馬車を引いてきた後に、【移動式冒険者ギルド宿屋】を異空間に収納していく。
「お待たせしました」
イノンが申し訳なさそうに言ってきたこともあり、「いや、別に問題ない。そんなに急ぐ旅でもないからな。とりあえず、帆馬車で移動できるところまで移動するとしよう」と、全員を見ながら伝える。
「そうね……とりあえず移動しよ」
リネラスが疲れ切った顔でうわ言のように呟きながら帆馬車に乗りこんでいく。
その後をイノンや他のメンバーも追従する。
俺が最後に帆馬車の従者席に座り、馬の手綱を手にとり走らせる為に手綱を操った。
――10分後。
荒地となったエルフガーデンに続く渓谷であるエルブンガストを、進んでいると「ユウマさん、リネラスさんがすごい落ち込んでいるみたいですけど?」と、ユリカが後ろから語りかけてきた。
俺は溜息をつきながら、帆馬車の中を見ると体育座りしたリネラスが一人ぶつぶつ呟いているのが見えた。
「ふむ……まあ、大丈夫だろ。リネラスだしな」
そのうち、いつも通り元気になるはずだろうし、きちんと森の特性を言わなかったリネラスも悪いのだ。
それに、先に攻撃を仕掛けてきたエルブンガストの樹木の魔物が悪いのだから俺は悪くない。
「……はあ、ユウマさんって時々、リネラスさんに対して辛辣な態度をとりますよね?」
「そうか? 俺としては至って普通の対応なんだが?」
ユリカはどうやら不満があるようだが、俺とリネラスはユゼウ王国に入ってからの仲だ。
いまさら遠慮する間柄でもないしな。
それに、セレンとイノンとセイレスとか見てほしい。
まるで、俺達の会話など聞こえてないとばかりにコミュニケーションを取っているではないか。
その会話の中にはリネラスを労わると言った言葉がまったく含まれていない。
さすが、皆も慣れたものだ。
「そうなんですか……」
ユリカが呆れた顔で俺を見てくる。
そんなユリカの顔を見たときに俺がエルフガーデンに入ってから常時発動している【探索】の魔法範囲内にいくつもの赤とグレーの光点が表示された。
数分後に俺が操る帆馬車と遭遇する可能性が非常に高い。
「どうやら、お客さんのようだな」
「え? お客さんですか?」
ユリカが不思議そうな顔で俺を見てくるが、すぐに魔物の襲撃と結びつけない事から、町にずっと暮らしてきた弊害と言えよう。
ユリカが疑問を呈してきて、俺が答える前に予想よりも早く赤い光点が接近してきて姿を現した。
それは、アライ村の山で時折見かけた狼。
そんな狼を見たユリカは驚いた声で「ユウマさん! あれはフェンリルの亜種であるハウリングドックですよ!」と、叫んできた。
ユリカの声に、帆馬車の中にいたメンバーも何事かと顔を出してくる。
そして、「ああ、なるほど!」と、言う表情を見せたあとにすぐに帆馬車の中に戻っていってしまう。
そんななか、ユリカだけは「ええ? みんな反応が淡泊すぎじゃないですか?」と呟いているが10匹近い2メートルを超す狼を【風刃】の魔法を発動し狼たちを斬り捨てると納得した顔を見せてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます