第236話
海の港町カレイドスコープから無事に脱出した俺は町の東側で、イノンが従者となっている帆馬車に近づく。
「ユウマさん、お帰りなさい」
「いま、戻った。何かおかしな事とかなかったか?」
俺の言葉にイノンがかぶりを振る。
「特には――それで、身分証を提示していた理由は分かりました?」
「いや、身分証を提示していた理由は分からなかったが、町はとにかく酷い有様だったな」
俺は町での出来事を思い出す。
浮気ばかりしていた奴らが女性陣に殴られ蹴られ踏みつけられる様を……。
まったくひどいものだった。
「そうですか……つまり、規制をかけていたのは町の出来事を外に漏らしたくないからという事でしょうか?」
「それはどうだろうな……」
はっきり言って、町の様子がおかしな事は一目見れば分かるはずだ。
そんな状態で、余計な火種を町に入れるかどうかと言えば、俺ならノーと言う。
ただでさえ、妙な花で住民同士が喧嘩をしてしまっている。そんな場所に旅人を入れたらどうなるか分かった物じゃない。
それに、俺達に身分証を提示してきた兵士は町で問題が起きてる事を知ってるにしては落ちつきすぎていたと思う。
そうなると、今回の身分証提示は町での異変とは別件と考えられるわけだが……。
結局、仮定の域を出ない。
「それでどうしますか?」
イノンは上目づかいに俺に聞いてくる。
「そうだな……とりあえず、リネラスが市長とギルド契約を結んでいるみたいだから勝手に行動したらマズイからな。まずはリネラスに確認してからだな……」
「でも、リネラスさん。たぶん、引き籠ってると思いますよ?」
「そうだった……」
俺のイノンの間に微妙な空気が流れる。
「どちらにしても、宿屋に一戻ろう」
「はい! わかりました!」
イノンは俺の言葉に答えてくると馬の手綱を操り帆馬車を走らせ始めた。
しばらく帆馬車を走らせた後、移動式冒険者ギルド宿屋が見えてくる。
「イノン、帆馬車はいつものように中庭に……」
「はい」
イノンが操る帆馬車は、宿屋を半周して宿屋の裏側から中庭に入っていく。
「ユウマさん、中央の花壇が消えてます」
「ん?」
イノンの言葉を聞いて中庭を見ると、俺が海の迷宮リヴァルアで手に入れた宝玉を隠した花壇が綺麗さっぱりと消えている。
さらには中央に存在していた花壇を中心に20メートル程、円を描くように切りぬかれている。
「こ、これは一体……!?」
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