第189話

 それになにより。


「ごめんなさい……ユウマ。ごめんなさい……」


 泣いて謝ってくるリネラスを見て、俺が連れてきたのに……。

 彼女が自分は足手まといで俺を危険に晒したと泣いているのを見て――。


「もう大丈夫だ」


 俺は、リネラスに膝枕されていた事にようやく気が付きながら体に力を入れて立ちあがる。

 まだ体には痺れがあるが、動けないほどではない。


「ユ、ユウマ! もう少し休んでないと!?」


 リネラスは涙で濡れた青い瞳で俺を見てくる。

 だから俺は妹のアリアにするように、リネラスの頭の上に手を置いて撫でながら話しかける。


「リネラスが気にする事じゃない。リネラスを、ここに連れてきたのは俺だ。だからお前が何か気に病む必要はない」

「でも! でも! わ、私……」


 リネラスが両手で目を覆って嗚咽している。

 俺は溜息をつきながら、何故か今回の俺が怪我をしただけではない何らかの記憶を重ねて自分を追い込んでいるのではないのかと思ってしまう。

 ただ、そんな事を聞けるほど、俺とリネラスの仲は深くはない。


 どうしたらいいかと迷っていた所で、発動させた【探索】の魔法が、2個のグレーの光点を見つけた。


「……リネラス、その話は後にしよう。兵士達は、今回のことでクルド公爵邸から全て逃げ出したはずだ。それなのに、まだ生物が存在している。」

「……それって」

「ああ、おそらく連れ去られた冒険者ギルドの受付セイレスの可能性がある。悔むのは後でも出来る! だが、今を蔑にしたらダメだろう?」


 俺の言葉にリネラスはゆっくりと頷いてくる。

 俺とリネラスは、【探索】魔法が表示されていた場所へ向かう。

 そこは噴水であったが、俺の【探索】の魔法が地下には部屋が存在していると証明している。

 噴水を【風刃】で斬り裂き破壊すると、噴水の下からは地下へ伸びる階段が姿を現した。


「いくぞ」

「う、うん」


 俺とリネラスは階段を降りていく。

 そして赤茶色の鉄の扉を開くと、いくつもの石作りの小さな部屋が並んで存在していた。

 そして……。


「……ひどい。こ、こんなのは、あんまりです……セイレス、そんな……」


 そこには、呼吸を止めた女性が鎖に吊るされている。


「ユウマ……」


 リネラスは俺に話しかけてくるが、俺はまっすぐに女性に近づいていく。

 そして女性の鼻先に手を当てると呼吸が止まっている。

 ただ、肉体はまだ熱がある。

 おそらく、俺の【探索】の魔法は熱があったから生きている生物と判断して2人を表示したのだろう。って!? 2人?


 俺は、急いで奥の扉に向かう。

 先ほどから【探索】の魔法に反応していたもう一つのグレーの表示は、この奥からだ。

 扉を開けると小部屋の中には、10歳にも満たない少女が鎖に繋がれていた。

 衰弱はしているが生きている。

 【風刃】の魔法で少女の鎖を断ち切った後に【肉体修復】魔法で体を治していく。


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