第188話
「やれやれ……戦いの最中に相手に背を向けるとはね。まぁ……」
男の言葉と同時に右腕からの感覚が焼失した。
そして遅れて痛みを理解した。
激しい痛みが、先ほどまでと比較にならない程の熱が俺の脳内を駆けめぐる。
右腕に視線を向けると……俺の右腕は切り落とされていた。
血が絶えず地面を濡らしていき、意識が遠のいていくのを感じる。
「なるほど……だいたい貴方の力は理解しました。戦場に身をおいているのに他人を助ける為に勝機を逃すなど愚行もいい所です。少しは期待したんですがね……まぁいいでしょう」
「お前、一体何者なんだ? どうして……クルド公爵を殺害した?」
俺の質問に男は顎に手を当てながら考え。
「正直、今の君に説明するのもバカバカしいのですね。君は甘すぎる。それでは誰も救えないし……」
そこまで、聞いた所で俺の意識は途絶えた。
「ユウマ! ユウマ! ユウマ!」
声がする。
俺の名前を呼ぶ声だ。
体がだるい。
力が入らない。
それでも必死に「ユウマ」と俺の名前を呼ぶ声に俺は……。
「……り、リネラス……」
俺は辛うじて意識を取り戻す。
俺の頬をリネラスが流した涙が濡らしていくのが分かる。
「ど、どうしたんだ? そんな目で俺を見て……」
「ユウマ!? ごめんなさい! 私を庇ったばかりに私が足手まといになったばかりに!」
俺は泣いているリネラスの頭を撫でようと右手を使おうとして気がつく。
そうか、俺の右手は男に……。
俺はすぐに【肉体修復】の魔法を発動させ修復する。
その様子を見ていたリネラスは目を見開いて俺を強く抱きしめてきた。
「あの男は?」
俺の言葉を聞いたリネラスは。
「ユウマは殺す価値もないって、何の為の力すら理解していないって言って去っていったの! 私には、何も出来なかった……ユウマが私を庇ってくれたのに……」
そう言うとリネラスは、また泣き始める。
俺は今度こそ、リネラスを撫でようとしたがやはり体に力が入らない。
恐らく、投げられたナイフに毒が仕込まれていたのだろう。
即死の毒じゃなくて助かった。
「助かった?」
「で、でも……ユウマが生きていて……命があって良かった。私は、ユウマが死んだと思って……でもユウマなら必ず次には! きっと勝てるはずです!」
リネラスの言葉を聞きながらも……俺は思い至る。
奴は、俺を見逃した。
そして俺は、卑怯な手を使われたとは言え結果的に負けた。
慢心がなかったとは言わない。
だが! それは……。
俺は、まだ体が麻痺していたが自分自身が負けた事に憤りを感じずにはいられなかった。
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