第三章 幕間 司祭ウカルの演説

第154話

 いつまでも平和を謳歌出来ると思っていた。

 どこまでも恵みを享受出来ると信じて疑わなかった。

 どこの村よりも豊かで災害からも程遠く疫病も発生しない。

 そのような平和な時が15年も続いた。

 ただ、それは幻想であった。


 綻びは些細な物で、最初は緑あふれる森に赤みが差した程度の物であったがヤンクルにはすぐに理解できた。

 ユウマ村に急いで戻ったヤンクルは、新しく作られた教会に驚きながらも……。


「ウカル様!森に瘴気が!」


「思ったよりずっと早いですね。すぐに村の皆さんを教会の地下に避難させてください。戦える人は武器を取り北側の壁に集まるように伝えてください」


「わかりました」

 ウカルの言葉にヤンクルは頷くと村民達が集まっている場所へ向かう。

 するとそこは地獄であった。

 死霊が発する瘴気に耐えられない村人が倒れていた。

 特に子供や老人への影響が大きく全員の意識が朦朧としている。


「すぐに教会へ運び入れてくださいとのウカル様からのご指示です!教会なら瘴気から身を守れるとの事です」

 冒険者や戦闘職、聖職者や特技持ちでない限り、この濃度の瘴気に耐えられる者はいない。

 それをヤンクルは冒険者をしていた経験から理解していた。


 そんなヤンクルの視界の隅でウゾウゾと動きながら倒れてる村人を介護しながら教会に向かって運んでいるスライムがいた。

 それも1匹や2匹では効かない。100匹は居る。


「これはユウマ君が作り出したスライム?どうしてこんなに増えて?」


「ヤンクルさん、これは一体どういうことなんですか?どうして森から魔物が攻めてくるんですか?ここ15年間こんな事なんてなかったのにどうして……」

 男の言葉にヤンクルは、頭を振る。

 そんな事は、ヤンクルにも分からない。


「私、聞いたわよ。ハネルト大司教様とウカル様が、あの子がユウマが村から離れたら魔物が襲ってくる可能性があるって話しをしていたの聞いたわよ!」

 女の言葉に意識を失った子供を抱きかかえてる女性が目を見開く。

 

「それじゃなんだい?ユウマがこの事態を引き起こしたっていうのかい?」

「ユウマが居なくなったから攻めて来るって事はユウマが何らかの力で抑えていたと考えた方が……」

「何だよ!村の人間なのに何で村から出ていくだよ!」

「普段から迷惑しかかけてないのに、どうして俺達にこんな事するんだ!」

「子供が……ユウマのせいで……」


「今は、そんな事を言ってる場合ではないだろう!すぐに教会へ避難するんだ!」

 ヤンクルの言葉に住民が着の身着のまま教会に駆け込んでいく。

 それを見ながらヤンクルはため息をついた。

 

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