第146話

 そして翌日――。

 俺はベッドから起きる。

 隣のベッドを見るとイノンがまだ寝ていた。


 彼女を起こさないように俺はそっと起きてから、魔物が町に寄ってきていないか【探索】の魔法を発動させる。

 俺が発した探索魔法は超音波となり、周囲の地形から全ての生物まであらゆる物質に反響して戻ってくる。

 それらは、俺の頭の中でマップを作りどのような地形なのか、どんな生物がいるのかを克明に表していく。


「これは……!?」


 頭の中で無数のグレーの光点が表示されていく。

 その数は、ウラヌス十字軍の数よりも多い。


 向かってきている進行速度から見て大部分の動きはそんなには早くないと思われる。

 ただ、隊列が整い過ぎているのが気にかかるところだ。


「軍隊か? ……いや、まさか!?」


 俺はすぐにベッドから出るとタライの中に水素分子を結合させた水を落とす。

 そしてタライの中の水で顔を洗ったところで。


「――んっ、……ユ、ユウマさん……?」


 イノンが俺の生を呼ぶ声が聞こえてきた。

 寝起きだというのが声色から分かる。


「すまない、起こしてしまったか?」

「ううん、大丈夫……だけど、どうしたの? そんなに慌てて……って!? え?どういうことなの? なんでユウマさんが私の部屋にってあれ? ここってユウマさんのお部屋? どうして私ここに……」

 

 そこで、ようやくイノンが昨日の事を思い出したのだろう。

 顔を真っ赤に染め上げていく。

 ただ、いまの俺にはそれを気にしている余裕がない。


「イノン、悪いがどこかの兵団だと思うが、この村に近づいてきている。相手がどこの誰かが分からないし目的も定かではない。俺が調べてくるからイノンは、村の連中になるべく家の外に出ないように伝えてくれ」

「は、はい。無理をしないでくださいね?」


 まだ起きたばかりで頭が回っていないのだろう。

 イノンは、詳細を確かめずに頷くだけ頷いてきた。


「さて、行ってくる」


 俺は2階の窓を開けると窓から飛び降りる。

 そしてフィンデイカ村の南側に向かう。

 そして村から少し出たあたりで騎馬隊の姿を俺の目は捉えた。

 思っていたよりも、ずっと進行速度が速い。


「仕方無いな……」


 あまり適当な仕事はしたくないんだが、この際……背に腹は代えられないな。

 俺は、大気の原子構造を組み替えた後に分子を結合により大気を変換させる。

 それに伴い、大気は極度に圧縮された巨大な物質に変換され村の周囲を囲っていく。

 まったく凹凸が無い高さ50メートル、厚さは5メートルはある巨大な土壁が出来上がった。

 それらの壁を見た騎馬隊達は俺の方を驚愕な眼差しで見てくる。

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