第145話
イノンが顔を青くして俺にしがみ付いてくる。
俺はその様子を見ながら言葉を選びながら語りかける。
「イノン、あれを見てみないか?」
「ど、どれをですか?」
イノンは俺が顎で示した夕日の方へ視線を向けると、顔色を変えて見入っている。
「とても綺麗だろう? あれは何れ消えるから美しいんだ。だからこそ、人に感動も与えられるし、また感情を揺さぶる事も出来る。そしてどんな事にも永遠なんて存在しない。物事は儚いからこそ尊くもあり何れ壊れるからこそ悲しくもあり美しいんだ」
イノンは、黙って俺の話を聞いている。
「たしかに俺は、強い力を持っている。それは否定しない。だがな自然の摂理に反する事は出来ない。たしかに俺には、イノンがどれだけ苦しく悲しい思いをしているのか分かってやれないし代わってやる事も出来ない」
空から落下している間にも、夕日が少しずつ地平線の先へ消えていく。
イノンの表情は俺からは見ることは出来ない。
でも静かに聞いてくれていると言う事は、分かってくれている事と思いたい。
「すぐに気持ちに折り合いをつけろとは言わないし、強制もできないし、俺に何が出来るとも言わない。それでも……気持ちを溜めこむのは良くはない」
おれはそこで一度言葉を区切る。
まぁ俺にも妹があるからな、こう言う時はどういう言葉を選ぶかくらいは大体分かる。
「まあ、あれだ。どうしてもと言うなら、泣く時くらいは俺の胸を貸してやってもいい。それに誰かの為に泣く事は決して恥ずかしい事じゃないからな」
俺の最後の言葉で、イノンは「はい……ありがとうございます」と言い出すと、小さく嗚咽している。
嗚咽は段々と大きくなっていき最後にはイノンは疲れて眠ってしまった。
俺は魔法で減速し地面に降り立ったあと宿屋に入る。
幸い日が沈んだ事で、空から落ちてきた俺とイノンを目撃した人間はいなかったようだ。
俺はイノンを抱きかかえたまま宿屋に入る。
抱いたままの泣き疲れて寝ているイノンを、自分の部屋に運ぶとベッドにイノンを寝かせる。
俺は、イノンをベッドに寝かせた後、彼女の表情を見ながら考える。
いくらイノンの気分転換のためだったとは言え、恥ずかしいセリフを吐いてしまった。
ただ、放っておけないと思ってしまった。
だから衝動的に行動に移してしまい、あんなことペラペラと話してしまう結果に。
思い起こすと自分が言った事で悶え苦しみそうだ。
とりあえずは、もう寝るとしよう。
俺はイノンを寝かせているベッドとは違うベッドで横になると目を閉じた。
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