第142話

 リネラスは男にどなられて俯いてしまう。

 まあ実際、男が言ったとおりユゼウ王国の冒険者ギルドは壊滅状態なのは事実なのだが。

 だが。今の男の発言は気にいらない。


「お前は俺を頼ろうとここに来たんだよな?」


 俺の雰囲気が変わった事に気がついたのか男はたじろぐ。


「そ、そうだが……」

「こいつら全員仲間なのか?」


 俺は冒険者ギルド内にいる8人の男達へ視線を向けながら話す。


「そうだ。全員護衛だがそれがどうした!」


 それがどうしただって?こいつらは何も分かってないな。


「お前らが今いる場所はどこだ? ここは冒険者ギルドの敷地内だぞ? なら依頼は冒険者ギルドを通して依頼するのが筋道だろう」

「だが、こいつらには何の力もな!?」


 俺が男の襟を掴んで持ち上げると男は小さく悲鳴を上げてきた。


「もう一度言うぞ?俺に仕事をして欲しいなら冒険者ギルドを通せ。まあ貴様らの依頼は受け付けんがな」

「……な、なぜだ?我々はコーデル商会の者だぞ? 国をまたいで商売をしている大商会だぞ? 伝手が出来るなら貴様にも悪い話ではないだろう? 死霊の森を抜けるのに力のある冒険者が必要なのだ。金なら払う」

「金の問題じゃないんだよ。お前らは、この国で商売をしていて冒険者ギルドがどんな立場に置かれているのか理解しているんだよな? ギルド職員って立場だけで命が危険に晒されているのに、たった一人になってまで冒険者ギルドを存続させているコイツに力がないだって?たしかにコイツは戦う力は無いかも知れないな。だがな、コイツは何年も誰かのために支えになるために無償で頑張ってきたんだ。自分の命が危険に晒されると分かっていてもな。それに引き換えお前らは、誰かの力を頼るだけか? 俺から見たらお前らの方がずっと弱く見えるぜ」


 俺は持ち上げていた男の体を、護衛達の方へ放りなげる。

 男達は、コーデル商会の人間を受け取ると腰から刃物を抜いてきた。


「なるほど……力で言い聞かせるつもりか?」


 俺が投げ飛ばした男が咳き込みながら俺を見てくる。


「よくもやってくれたな!コイツを痛い目にあわせろ!」


 俺は斬りかかられる前に男達に問いかける事にする。


「冒険者ギルド内で刃物を抜くのは100歩譲っていいとしよう。だが俺に刃物を向けるってことは殺されても文句が言えないという事なんだが、理解しているんだろうな? 俺は手加減なんてしないぞ? 敵になった瞬間に貴様らは全員殺す。その覚悟があるのか? あるなら掛かってこい」


 俺の発言に一触即発の雰囲気が流れる。

 いつでも戦闘に入れるように俺は【身体強化】の魔法を発動させる。

 すると……。


「ハインツさん!やめてください。ユウマさんはAランク+の冒険者なんですよ!」

 

 リネラスの言葉で彼らの動きが止まった。


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