第143話

「な、なんだと?」

 

 ふむ、コーデル商会のこの小太りの中年はハインツと言うのか。

 ハインツはリネラスの言葉を聞いて俺とリネラスを交互に見ている。


「さっき、こやつが冒険者Bランク+だと言ったではないか!」

「言いましたけど先ほど、Sランクのクエスト終わらせてきましたからAランク+になりました」


 リネラスはシレッと言っているが……ふむ。

 俺は冒険者カードを見てみる。

 ふむ、たしかにAランク+と書かれているな。

 さすがSランクのクエストといった所か?


 そして……俺がAランクの冒険者だと気がついたハインツは逃げるように冒険者ギルドから逃げていった。


「ユウマさん。ありがとうございます」

「……勘違いするなよ? 怪しい仕事を引き受けたくないだけだ。リネラスの為ではないからな」

「はい!わかっています!」


 リネラスは笑顔を浮かべながら俺に話しかけてきた。




 リネラスと食事をした後に彼女と別れ宿屋へと俺は戻ってきた。

 宿屋に足を踏み入れると宿屋入り口の受付カウンターで椅子に座りながらイノンがうつ伏せになったまま寝ていた。

 俺は、その様子を見て疲れているんだろうと思いながら近づく。


「イノン、起きろ!こんな所で寝ていると風邪を引くぞ!」


 いつもよりもフィンデイカ村の気温が低く感じられることもあり、風邪でも引いたらまずいなと思いつつ、話しかける。 

 おそらく、俺が湖を拡大した為に気化潜熱により大気の気温が下がっているのだろう。

 イノンの肩に手を置きながら体を揺すと、彼女はゆっくりと瞼を開いていく。


「ああ、ユウマさんですか。すいません、寝てしまっていて……」

「別にかまわないが風邪を引くぞ?」

「本当ですね。いつもより寒く感じます」


 イノンが大きな青い瞳を伏せながら体を震わせている。

 俺は宿屋内の大気分子運動を魔法で制御し温度を上げる。


「暖かい……ユウマさん、何かされましたか?」

「ああ、宿屋内の温度を少し弄っただけだ。これなら過ごしやすいだろう?」


 まぁ、すぐに熱は外に逃げてしまうが、それでも無いよりはマシだろう。

 もうすぐ冬だからな……。


「はい。魔法師の方は何でもできるんですね……」

「何でもは出来ない。出来る事だけだ」


 とくに、俺の魔法は科学が根底にある。

 そのため、物理に特化した魔法になっていて出来ない事の方が遥かに多い。


「ユウマさん……お父さんとお母さんを生き返らせる事は出来ますか?」


 イノンの問いかけに俺は頭を振る。

 肉体組織の構成を組み替える事はできるし、修復も可能だし、俺の【身体強化】の魔法のように細胞単位での強化も可能だが、それはあくまでも科学に沿った内容でだ。

 

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