第122話

「ゼノン!その黒髪の男は何者だ?」

 

 ――と、叫んできた。


「こ、この者は……」


 ゼノンが言いよどんでいるな。

 もしかしてこれは俺の当てが外れたか?

 ゼノンに任せて撤退をさせようと考えていたんだが、まあ無理なら無理で仕方無い。


「ゼノン。あのデブは、なんて名前なんだ?」


 俺は肥満の体現者である目の前のデブを指差しながら名前を聞く。

 名前が分からないと円滑な交渉が出来ないからな。


「あの方は、マリウス団長です、ネイルド公爵家第四騎士団を任せられている方です」


「ふむ……その騎士団ね……」

 

 俺は中央広場に無造作に打ち捨てられている死体を見て思う。

 そして、俺は目を動かしながら周りを見るが武器らしき物が落ちてる様子は見られない。


「なあゼノン、お前らは騎士のくせに武器すら持たない無抵抗な人間を殺したのか?」

「――!」


 ふむ、驚いているということはそう言う事なんだろうな。

 ふと横を見るとイノンが顔を真っ青にして震えている。


「まったく酷いものだな」

 

 俺はマリウスを見降ろしながら呟く。

 国民や力なき者を守る仕事についているのが騎士や兵士だろうに、それが弾圧する側に立ってどうするんだろうな。


「ゼノン、あのデブの次に此処で偉いのがお前か?」

「――あ、はい」


 ふむ、そうか……。

 なら最悪な事態になっても問題はないな。


「何をコソコソ話しておる!さっさとその者が何者か答えんか!」

「ゼノン下がっていろ、俺が交渉をする」


 今回は、交渉にはではなく煽りだ。

 さっさと此処からお帰り頂こう。


「おい!そこのマリなんていったけか? ああ、デブでいいか? おいそこのデブ! 一度しか言わないから良く聞けよ? 俺の名前は魔王ユウマだ。一応、あそこの娘と契約をしてお前らを駆除するって事になっている。だが、お前らのような屑にも生きる権利ってのがあるからな。そこでだ! 村人を解放して、すぐに村から撤退するなら命までは取らないで置いてやる」

「魔王? 一体なんだ! それは!?」


 マリウスが俺の言葉に突っ込みを入れてくる。

 仕方無いな……冥土の土産として教えてやるとするか。


「我が名は、魔王ユウマ! 全ての魔法を極めし最強の魔法師なり!」

「……もうよい……こやつを殺せ!」


 マリウスが青筋を顔に増やして大声で命令を下してくる。

 俺は、マリウスの言葉に薄くほほ笑む。


「交渉決裂でいいんだな? 最終警告だ、攻撃をしかけてきたらデブ、貴様を真っ先に殺す」


 俺の言葉にデブが怯んだが200人近い男達は武器を抜いてきた。


「もう一度聞くぞ? 俺と敵対するって事でいいんだな? すぐに獲物を腰の鞘に戻して撤退するなら五体満足で返してやるぞ?」

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