第123話

 俺の警告に男達の表情が緊張で引き締まるのが分かる。

 ただ――。


「マリウス団長!こいつの言っている事は本当です。こいつは攻撃魔法師です、撤退しないと全員皆殺しにされます。俺が預かっていた隊も全員こいつに皆殺しにされたんです!ですから撤退の指示をしてください!!」


 俺の言葉に反応したのはゼノンであった。

 周りの兵士達も鬼気迫るゼノンの言葉を聞いて鞘に武器を収めるかどうか迷っている。


「ゼノン!貴様、ユリーシャ派に買収されたのか? 攻撃魔法師だと? そんなのが居たとしても魔法が発動する前に殺せばいいだけだろう!貴様ら、その男を殺せ!」


「そうか。敵ってことでいいんだな?」


 なら仕方ないな。

 俺に向けて近づいてくる兵士を見ながら、【風刃】を発動。

 真空の刃を発生させマリウスの首を刈り取った。

 『ヒギィ』っと、言う言葉がデブの断末魔であったがそんなのはどうでもいいだろう。

 

 突然、自分達の指揮官が倒されたことに、空で回転しながら落ちてくる首に騎士や兵士達の目が釘付けになっている。

 そしてそれが切断された首だと理解した瞬間、兵士達は俺から距離を取った。


「ゼノン、俺は無駄な殺しをする気はない。お前がこいつらを纏めて撤退させておけ。それとネイルドって奴には俺がお前の部下を殺したって事はそのまま伝えていいぞ? あとは、そうだな……別に貴様の領内だ。どう治めようが俺の知ったことじゃないが、俺と敵対したら殺しに行くと伝えておいてくれ……いいな?」

「……わ、わかった」


 ゼノンはすぐに兵士達に視線を向けると語り始めた。


「お前達、見てのとおりだ。鞘に武器を収めてすぐ撤収の準備にかかってくれ。公爵様の兵力をこんなところで失うわけにはいかない」


 ゼノンが必死に力説しているが誰もが、ゼノンの言葉を鵜呑みにはしてないだろう。

 ただ目の前で起きた現実が自分に向けられた時の恐怖が彼らの行動を後押しした。

 捕まっていた村人達は全員解放された。

 そして、ゼノンに指揮された騎士と兵士達はそのまま村から撤退していった。

 

「さてと……こんなところでいいか? イノン――」


 俺は、言葉を喉元で留めた。

 そこには、積み重なった物言わぬ躯の前で泣いてるイノンの姿があった。

 

 俺は後頭部を掻きながら、すぐに頼む必要もないかと思う。

 どうせ、まだ日は高いからな。



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