第121話

 ゼノンと呼ばれた男はどうしていいのか決めあぐねているようだ。

 ならば、俺が交渉する事で彼らを退かせる事ができる。


「ゼノンさんとやら、悪い事は言わない。ネイルド公爵家の所にさっさと尻尾を捲って帰った方が身の為だぞ? いまなら五体満足で帰れるからな? 荷物まとめてさっさと帰れ。撤退の時間くらいはやるぞ!」

 

 こんなもんでいいか。

 問答無用で倒してもいいんだが、この方がネイルド公爵家も警戒するだろうし。

 

「ふ……ふざけるな!!」

「全員あいつを殺せ!だが女は生かしておけよ?」

 

 ゼノンとやらの言葉に全員が抜刀してくる。

 ふう、まったくどいつもこいつも言葉が通じないな。


「最後通告だ。このまま尻尾を巻いてさっさと帰れ、そうすれば死なずに済むぞ? もしそれ以上近づくようなら敵と見なす」


 俺の言葉を合図とするように兵士達が殺到してくる。

 俺は、一人を残して全員を【風刃】の魔法で殲滅した。

 

「は? え?……」


 ゼノンは部下であった20人近くの兵士が倒された事を理解出来ていないようだ。

 理解出来ていないならきちんと教えてやる必要があるな。


「さて、ゼノンとやら貴様を生かしたのは村にいる兵士の撤退を指示させるためだが分かっているな? 断ればこの場で貴様を殺すがどうする? 10秒だけ時間をやるから答えは迅速にな?」


「くっ! 撤退致します」

「交渉成立だな」


 俺は、魔王らしく尊大に言ってのけた。

 

 


 ネイルド公爵家が治める領地の北に位置する村フェンデイカは、人口1500人程度の村である。


「なるほど、ここがフィンデイカの村か……」


 俺は、ゼノンに案内されながら町の中を歩く。

 そんな俺の後ろをイノンが静かについてきていた。


「ゼノン隊長! マリウス様が広場にてお待ちです!」

「わかった……」


 一人の兵士が近づいてくるとゼノンに話しかけている。

 兵士はイノンを見たあと、俺を見て首を傾げた。


「ゼノン隊長、そちらの男性は? ネイレド公爵家の傭兵ですか?」

「あ、ああ……そんな所だ」

 

 ゼノンが歯切れ悪く答えるが、話を聞いた兵士は何ら不思議に思わずにそのまま立ち去っていく。


「ずいぶんと人望があるんだな?」

「そうでもない」


 ゼノンは俺の質問に素っ気なく答えると広場と思われる方へ向かっていく。

 それに伴い兵士の数も増えていくが、遠巻きに見ているだけで近寄ってこようとはしてこない。


 広場に到着すると、目算だが200人近い男達が甲冑をつけたまま陣取っていた。

 その中で一人だけ異彩を放っている男が居た。

 ぶくぶく太った樽のような腹をした人間。

 その人間が、俺を見るなり。 


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