第104話

「そうじゃ、人間というのは失敗を繰り返し経験を経て成長し理解を深め行動していく。なら最初から膨大な知識だけを持つ者はどうなると思う?」


「……最初から理解をしているから経験を経ず成長しない?」

 リリナは自分で言いながらユウマの置かれた状況がどれほど危険かを理解してしまった。

 それは子供に武器を与えて使わせているのと同じではないか?

 そんな状態の子供が悪意に染まったらどうなるのか……。


「そうじゃ。だから我はユウマが魔法を使えるまで我の所有物だとマーキングを施した。他の魔物や悪意からユウマが傷つかないようにな……じゃが……どこにいく?リリナよ」

 リリナは、九尾の話の途中でユウマを連れ戻そうと歩き出した所で腕を捕まれた。

 

「今のお主では、ユウマの移動速度には着いていけぬ。足手まといになるのが関の山じゃ。それにこれからお主の村には多くの自然災害が降り注ぐ。神楽の巫女として村を守るのがお主の仕事になるじゃろう」


「それでも!」


「一人の感情で数百人の命を切り捨てるつもりか?ユウマが居たからあの村は、この枯れた国であっても飢饉にあわず厄災に見舞われる事もなく、病に冒されることもなかった。これからはそれらが降り注ぐことになるのだぞ?それでも行くのか?」


「……私は、どうしたら……」

 リリナはそのまま蹲ってしまう。

 ずっと続くと思っていた日常がこんな風に崩れるなんて思っても見なかった。

 ユウマ君が居なくなるその日が来るなんて想像していなかった。


「あきらめるしかないのう。あの者は、この世界にとっての……」

 九尾の最後の言葉は、到底信じられない内容であった。

 

「私は絶対、ユウマ君を助けて見せます」


「よう言った、それでこそ我の契約者じゃ。この大陸の狂った四神に灸をすえてやらんとな」

  




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