第二章 幕間 リリナの決意

第103話

 ユウマが村から離れた頃、アライ村から南西の川のほとりに無数のキツネ達が集まってきていた。


「むっ……空気が変わりおった」

 ユウマのライバルである狐達の頭目は慌てて、川の中から出たあとに周囲の空気を嗅ぐように鼻を鳴らす。


「九尾様、どうかされましたか?」

 リリナは突然、匂いを嗅ぎ始めた狐に声をかける。

リリナに声を掛けられた狐は女の姿に変化する。

 そして、口を開くと――。


「リリナよ、お主は何も感じないのか?周囲の山々の霊力が急速に落ち込んできておる」

 ――と告げてきたがリリナには何を言われているのか理解できない。

 最近になってようやく《神楽》の特技を少しは理解できるようになったばかりのリリナでは周囲の霊力を感じるまでにはまだ至ってないのだ。


 そもそも、ユウマが住んでいる村に来たのは神楽の特技上の理由だからだ。

 古来より山には不思議な力があると言われていた。

 そのため、もっとも山裾に近い村を探し移り住んできたのだ。


 そしてユウマと仲直りをした次の日、一人のキツネがリリナに話しかけてきたのだ。

 キツネは人の姿…女性の姿に変わると『神楽の力を持つ者よ。我と契約をせんか?』と提案してきた。

 リリナは、ユウマがいつも無茶な事をして怪我ばかりしてた事を思い出し、彼を守るために契約をしたのだ。

 契約は、リリナが神楽の巫女として彼女に仕える事。

 そして彼女は変わりにリリナに力を貸すという誓約であった。


「霊力が?でもどうしてでしょうか?九尾様」


「待っておれ、調べる」

 九尾はそのまま感知範囲を広げていき村をもその範囲に取り込む。

 そして在るべき存在がいないことを突き止める。


「まずいのう」

 リリナは、契約して10年近くたつがここまで動揺している九尾を見るのは初めてであった。


「ユウマが村を離れおった」


「―――え?」

 リリナは、九尾が一瞬何を言っているのか理解が出来なかった。

 ユウマが村から出て行った?

 意味が分からない。


「九尾様、ユウマ君がいなくなったってどういうことですか?」


「……詳しいことは分からんが恐らく歴代の者と同じく……」

 歴代?歴代なんてどうでもいい!ユウマ君はどうしていなくなったの?


「リリナよ、落ち着くんじゃ。おぬしは我と契約をしているのじゃぞ?おぬしの心の動揺が分からぬと思うたか」


「今から言うことは他言無用じゃ、よいな?」

 リリナは頷く。

 なんでもいい、ユウマ君の情報がほしい。


「ユウマは、異世界人の知識を植え付けられた弊害で心が成長していないのじゃ」


「心が成長してない?」

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