第102話


 起きた事を理解できなかった。

 ワイバーンを蹴りだけで吹き飛ばした事を。

 お兄ちゃんがどうしてここにいるかという事を。

 お兄ちゃんはがどうしてこんなに怒っているのかという事を。

 

「大丈夫だったか?」

 お兄ちゃんは私の頭の上に手を置いてきた。

 その手は小さかったけど何故かとっても安心した。


「すぐに片付けてくる。だから待っていろ」

 お兄ちゃんが私に背中を見せた後、ワイバーンに近づいていく。

 吹き飛ばされたワイバーンは、食事の途中を邪魔されたのか怒りくるいながらお兄ちゃんに襲い掛かった。

 そしてワイバーンはお兄ちゃんに粉々に破壊された。

 舞い散る骨に臓物、降り落ちる血に私は、お兄ちゃんの凄さを感じた。


「かっこいい……」

 私のお兄ちゃんは、すごかった。



「という事があったんですよスラちゃん、えへへへっ」

 私は脅して契約を結んだスライムにお兄ちゃんを好きになったエピソードと、カッコイイ出来事を纏めたお兄ちゃん列伝第一話を話した。

 もちろんお兄ちゃん列伝は9800話まである。

 毎日話しをしても20年以上は語り聞かせられる大ベストセラーだ。

 

「(もう3周目なんだが……)」

 スラちゃんが困ったような意識を飛ばしてきます。

 もう分かってないですね!

 お兄ちゃん列伝は現在も更新中で、一日10話づつ増えているのですよ?

 一日24時間毎日、お兄ちゃん列伝を聞いて暗記できるくらいじゃないとお兄ちゃんが大好きな妹としての使い魔は勤まらないのです。


「大丈夫です。スラちゃんがきちんとお兄ちゃんの凄さが理解できるまで毎日教えてあげますから、安心してください。それにスラちゃんがお兄ちゃんに殺される所を、私の命令を聞くって約束で助けたんですからきちんと仕事してくださいね」


「(……)」

  

「さて、それではお兄ちゃんも村を出たことですし私たちもお兄ちゃんの後を追うとしましょう!」


「(まて!いいのか?ここはお前の生まれた村だろう?愛着とかそういうのはないのか?さっきも教えただろう?ここの村はこれから大変になると)」


「え?何を言ってるんですか?お兄ちゃんが居ないのに、こんな村に価値なんてあるわけないじゃないですか?きちんとお兄ちゃん列伝を聞いてましたか?」

 どうもスラちゃんは私の使い魔としての自覚が足りないようです。

 私は、正論を説いてるスラちゃんにきちんと伝えることにする。


「いいですか?スラちゃんがどんなに正論を言ったとしても、それは余所のお家の話なんです。余所は余所なんです。余所の常識を家庭内に持ち込むのは良くないことなのです。分かりましたか?」


「(う、うむ。それなら我が眷属を少し多めに村を守る為に…じゃなくてユウマが戻ってきた時のために残していっていいだろうか?)」

 お兄ちゃんのためですか……。

 少しはスラちゃんも理解してきてくれたようですね。


「仕方ありませんね、どのくらいかかりますか?」


「(5日ほどだな)」

 スラちゃんはいつもマージンを取る癖があります。

 つまりもう少し早くできるかも知れません。

 「分かりました。3日でお願いしますね」


「(!?)」

 さて、お兄ちゃんを追いかける旅に出るとしましょう。



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