第二章 幕間 進撃のアリア

第101話

 私は、お兄ちゃんがあまり好きじゃなかった。

 どこか掴みどころが無くて、無邪気なところが嫌いだった。

 

 ある日のこと……。

 

 お母さんが、『お兄ちゃんは?』と聞いてきた。

 お兄ちゃんは、お母さんが止めるのも聞かずに森によく遊びによく行っていた。

 

 何でも数年前までは、ここは魔物の大群が連日押し寄せてくる危険な所だったらしい。

 だからお母さんは、お兄ちゃんに何度も危険だから行ったら駄目と言っていた。


 でもお兄ちゃんは、お母さんの言う事を聞かずに森の外に遊びに行っては、ワイルドボアやレッドボアって魔物を村の中まで連れてきていた。

 そのたびに村の皆で総出で魔物を討伐していたのを私は小さい頃から見てきた。

 

 そんな馬鹿な事ばかりしてるお兄ちゃんを見て私は思った。


 どうして静かにしていられないのだろう?

 どうしてあんなに無邪気なんだろう?

 どうして皆はお兄ちゃんを嫌いにならないんだろう?

 どうして……お兄ちゃんは私を見てくれないんだろう?


「知らない!お兄ちゃんなんて知らない!どうしてお母さんはお兄ちゃんに甘いの?もっときちんと叱らないとだめだよ!」

 私は普段から思っていたことを口にした。

 お母さんの返答は、『男の子ってそういうものだから』だった。

 分からない。

 分からないよ。

 私を見てくれないお兄ちゃんなんて大嫌い!


 私はずっとずっとお兄ちゃんが嫌いだった。


 私が5歳の時、友達と二人で村の南西にある川まで水浴びに行った事があった。

 その時、友達の女の子が悲鳴をあげながら走って近づいてきた。


 後ろを見るとそこには体長10メートル近い灰色のワイバーンがいて、空を滑るようにして私たちに近づいてきた。

 私たちはとっさに座る。

 ワイバーンは私たちの頭の上を通過したけど、遅れてやってきた風で身動きが取れない。

 風が止んだ時に立ち上がろうとしたけど腰が抜けて立てなかった。

 

 一緒に遊んでいた友達を見ると友達は一心不乱に村へ走って逃げていく。

 大声で叫んでも友達は振り返ってもくれない。

 

 ワイバーンが地面に降りゆっくりと私に近づいてくる。

 少しづつ迫ってくるその巨体に私は恐怖を感じた。

 死にたくない。

 死にたくない。

 死にたくない。

 死にたくない。

 でも奇跡なんか起きない。

 

 ワイバーンが大きな口をあけて私の飲み込もうとした時だった。


「汚ねえ手で妹に触るんじゃねええええ」

 声が聞こえたと同時にワイバーンが口を開けたまま吹き飛んだ。

 そう文字通り吹き飛んでいった。

 10メートルはある巨体が地面の上を転がりながら何本も木々を圧し折って止まる。

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