第98話

 アリアには、自立したきちんとした女性になるようにと。

 リリナには、暴力ばかり振らずに落ち着けと。

 ウカル様には、迷惑をかけてすいませんと。

 ヤンクルさんにはお世話になりましたと。 

 そして両親には捜さないでくださいと。


 大体の内容は纏めて最後の一通を含めた6通の手紙を作成するといつも家族で食事をしていたテーブルの上に硬貨の詰まった壷と手紙を6通置いた。

 最後の一通には村長代理は村で決めてくださいと書き、村の発展のために壷のお金を使ってくださいと書き加えた。

 その後、誰にも見つからないように村の北側の森に入ると俺は一息ついた。

 

「さて、あとは……」

 

 俺は村長の家で以前に見つけた近隣諸国の地図を見る。

 今まで俺が暮らしていた村はアルネ王国の北東のイルスーカ侯爵領の最北部に位置する。

 そしてここから北に移動すると正者の森と呼ばれるフィールドダンジョンがあり、その東側にウラヌス教国がある。

 そうすると、正者の森の西側に位置するユゼウ公国に向かったほうがいいかもしれない。

 誰もが森の中に逃げるとは予想しないだろう。

 それに自国内を逃げ回るより他国に逃げれば教会も追ってはこないだろう。


 まあ追ってきても守るものがないから逃げられるけど……。

 

 少しだけイルスーカ侯爵家のエメラダ様の事が気がかりだが、彼女は才媛だし村にいる間に穏やかになって笑うようになった。


 だからもう大丈夫だろう。


 俺は地図を閉じると森に脚を踏み入れた。

 まずは、ウラヌス教国の目をアルネ王国から遠ざける為にユゼウ公国に向けて出発だな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る