第97話
内部の屋根を支える巨大な大理石の柱には、この村から見える風景の彫刻を施しており説法をとく壇上の背後にもステンドグラスをもちろん埋め込んでおいた。
そう、俺の力作が今ここに顕現したのだった。
俺は教会の屋根上から下を見下ろし様子を窺う。
馬車から降りてきたハネルト大司教様は、俺が作った教会を見た後に泡を吹いて倒れ、護衛の人や付き人に介護されていた。
さっきまで元気だったのにやはり無理をして視察をしていたのだろうか?
そしてウカル様は、俺が作った教会を見た後に、顔を真っ青にして周りを見渡して誰かを探していた。
さてと……間違いなくウカル司祭様が探しているのは俺だろうな。
だが、アース神教の司教クラスが来たと言う事は、この人だかりがある中で俺が出ていくわけにはいかない。
ウカル司祭様には悪いことをしてしまった。
ただ、遅かれ早かれ、俺が村から出ていくのは確定事項だった。
何らかのアクションを起こして村から出て行く予定であったが、丁度いいかもしれない。
アリアが魔王の可能性が高いと思った日、俺とウカル様で決めたのだ。
俺には常人を遥かに超える魔法師としての力ある。
もし俺がウラヌス十字軍が撤退した後、村から突然いなくなったら?
ウラヌス十字軍を一人で撤退させる程の力を持つ俺が村からいなくなる事で、やつらの目は全て俺に向いてくるだろう。
逃亡したことでウラヌス十字軍は、俺を魔王として追ってくるだろう。
そうすれば、妹のアリアへ向けられる目を俺に惹きつける事が出来る。
なにせ、自分を狙ってきた人間が逃げるのだ。
同じ場所にいる方がおかしい。
だからこそ、囮の意味がある。
そして極め付けはこれだけの巨大大聖堂を一人で作れるのなら、俺が魔王たる存在ではと内外に説明しやすくなるではないか。
さて、そろそろ潮時かもしれないな。
――と、自分の失態をうまくごまかすために自分の中で体裁を取り繕う事を考えながら村から出て行く事を決めた。
俺は教会屋根上から静かに下りると自宅に走って向かった。
戸口をそっと空けて家の中を見る。
物音一つしない所を見る限り家には誰もいないようだ。
俺は家の中に入り戸口を閉めて自分の部屋と言っても妹と兼用の部屋に入る。
そして床下を空けていくつも壷を取り出して中から金貨を20枚ほど取り出すと布に包んだ。
壷の中には俺がハンター時代に肉以外の素材を行商人に売って貯めた金貨、銀貨、銅貨が詰まっている。
この世界の貨幣通過価値としては金貨1枚で1万円、銀貨1枚で1000円、銅貨1枚で100円であとは銭貨と呼ばれるものが存在している。
たぶん壷の中には金貨1万枚近いお金があると思うが、硬貨は嵩張るので置いていくことにする。
そして手紙をササッと認める。
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