第96話

「ハネルト大司教様、こんな辺鄙なところまでようこそおいでくださいました」

 ウカル様が頭を下げたので俺もそれに合わせて頭を下げる。


「よいよい、ウカルよ。おぬしの功績は聞いておる。ずいぶんと精進したのだな。して……そちらがエメラダ様からご報告のあったユウマ殿か?」


「はい。何かと教会の祭事を手伝って頂いています」


「……ふむ。ブルーム騎士団長もおるのか」

 ハネルト大司教様がブルーム達のテントに立っている旗を見て眉を潜めている。

 もしかしたら軍と宗教というのは仲が良くないのだろうか?


「何か問題でも?」

 ウカル様が質問をするがハネルト大司教様は『何でもない』と呟いていた。


「時にユウマ殿、イルスーカ侯爵領アース教会本部に一度来てはくださいませんか?」

 俺は首を傾げる。

 そんな事をしてこの人は何の得があるのかと。

 ただ……。


「俺は冒険者になる予定なので、申し訳ありません」

 宗教は嫌いだからいつもの方法で断る。


「ふむ……。それではこういうのはどうじゃろう。後学のために本部のあるイルスーカ侯爵領首都イルテイアに来られて冒険者になるというのは?もちろん滞在費も交遊費も生活費も基盤が出来るまでこちらが保証しよう。君に頂いた恩はそれだけあるのだよ。井戸とポンプに読み書き計算の出来る人材、私は君を評価しているのじゃ。君のような優れた才能が村で朽ちていくのは忍びない、考えてはくれんか?」


「……」

 なるほど。

 つまり井戸やポンプを教会は実用化できたって事か?

 ある意味すごいな。

 それと最近、村から町にいくって出ていった奴が何人かいたがまさか教会にスカウトされていたとは……。

 とりあえず、それは横においておいて。


「申し訳ありません。今はそのような事など考えてはおりません」

 もうすぐ村から出ていくのだ。

 ここで相手に期待を持たせてもしかたないだろうし、下手に期待させたらウカル司祭様に迷惑がかかるかもしれない。

 はっきりと断っておいたほうがいいだろう。


「そうか。気が向いたらウカルに伝えてくれ。それではウカルよ教会まで案内してもらえるかの?20年前に来た時は、たいした事は出来んかったからのう。少しは設備をよくしたいものじゃ」

 ハネルト大司教様は、ウカル様と共に馬車に乗ると橋を渡り村の中に入っていった。

 俺はハネルト大司教様が乗った馬車を追いかけるように入っていった御付きの者の姿が見えなくなるのを確認し《肉体強化》の魔法を発動させて教会に先回りした。

 

 しばらくすると馬車が見えてきたので《認識阻害》魔法を解除する。

 

 それと同時に高さ69メートルの尖塔を持ち横に60メートル、奥行きも60メートルはある巨大な寺院がその姿を現す。

 教会の壁は、練成魔法を使いまくり白い大理石のつくりになっている。

 そして窓には3メートル近い強化ガラスを使用した色鮮やかなステンドグラスが太陽の光を教会の中に取り入れ幻想的な雰囲気を作り出していた。

 さらに魔物であるワイルドボアの赤い毛をふんだんに使った赤い絨毯が寺院の目玉である大聖堂に敷かれており両脇には森の木材から作り出した長いすが40脚づつ綺麗に並べてある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る