第91話

 その者は怒っていた。

 このような劣悪な環境下に自身を置いていった主に対して。

 彼らの業界では、自身を作った主と契約を結ぶ事で主から力を貰い生きることが出来る。


 生まれた当初、その者は膨大な魔力を持つ主と契約できるのかと期待に胸を躍らせた。

 スライム族という誇りを捨ててまで必死に媚を売った。

 なのに名前すらつけてもらえずゴミや汚ればかりを処理させられたのだ。

 せっかくエリートスライム人生を送れると思っていたのに、これはあんまりな仕打ちではないかとその者は思った。

 そして到底許されるわけがないと言う結論に到達するまでには時間は大して必要なかった。

 先ほども一生懸命、声を上げたというのに主は聞いてはくれなかった。

 もはや実力行使しかないだろう、不当な労働には断固とした対応を取らねばならぬ!

 

 そして名も無きスライムは、分裂増殖を繰り返していき配水管の中を埋め尽くしていくのだった。

 そして、露天風呂の配水管が大爆発を起こした。


 時間はすでに夕方近く。俺は、日が沈みかけいていた中、ハシゴに乗りながら古代モルタルで教会の壁の隙間を埋めていた。


「――ん?……うおおお!?」

 突然、発生した爆風で俺が脚をかけていたハシゴが揺れる。

 ハシゴから落下しそうになるのを辛うじて堪える。

 爆風が向かってきた方向へ視線を向けながら――。


「露天風呂の方からか?」

 ――一人呟く。 

何かが起きている。

 そんな胸騒ぎが俺の胸中に湧きあがってくる。 

それも普通ではありえない何かが……。


 俺は、ハシゴから下りて爆発音がした方へ走っていく。

 そして、目を見開いた。

 なんと女性風呂の壁と配水管が爆発四散していたのだ。

 誰か、怪我人が出ていないのかと風呂場に踏み込む。

 そこには、何人も20歳以下の女性の裸体があった。


「ユ、ユウマ君……」

 振り返ると、体を洗っていたからなのか裸のリリナが呆けた表情で俺を見ていた。


「だ、だいじょう……」

 声をかけようとしたところで、言葉が止まる。

 リリナの体は成人前と言う事もあり、均整の取れた体つきをしていて、最近では村の食料事情もいいため、魅惑的な肉感を感じさせ……。


「ぎぁあああああああああ、目がめがああああああ」

 リリナの裸を見ていたら、リリナに両目に指を突っ込まれた。

 激痛で目を開ける事ができない。

 その場で転がりこんでいると――。


「信じられない!こういう事するためにお風呂作ったのね!?ユウマ君、そんな人だとは思っていなかった!」

 ――俺に向けてリリナが叫んでくる。

 《細胞増殖》の魔法を発動させながら目を開けると。

 リリナが顔を真っ赤にして俺を見てきている。


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