第89話

 そうすると、誰かがウカル様に精神的な負担をかけさせている事になる。

 ウカル様を困らせるなんて酷いやつもいるもんだ。

 

「実はですね、村の皆に日頃の疲れを癒して頂こうとお風呂を作ったんです」

 俺の言葉にウカル様が目を輝かせた。


「――そ、それは本当かい?ああ……お風呂に入るなんて王都で研修していた時に入った以来だから何年ぶりだろう……」

 ウカル様はすごく喜んでくださっている。

  

「それで、入り方の作法というか方法をウカル様と話し合いたいと思いまして」

 

「もちろんだとも!すぐに案内してくれるかい?いますぐにだよ?」


「はい、着替えと体を拭く布を持って着ていただけますか?」

 俺の言葉にウカル様は頷くとすぐに用意をしてきてくれた。

 そして俺が村の外れに作った建造物を見て固まっていた。


「……ユ、ユウマ君、これは一体?」


「はい、これは露天風呂といいます。こっちから入るようになっています」


「あまりにも大きいから驚いてしまったけど、浴場だけではないんだね。それでここは?」


「はい、ここは脱衣所になります。そして向こうにおいてあるのが氷の入った水です。暑いと喉が渇きやすいですから」


「なるほどね、ここの籠の中に服を入れればいいんだね?」


「はい。浴場で、まずこのタライでお湯を汲んでから体を洗って頂きます。そうしないと湯船が汚れてしまいますから。あとは湯量が減りましたらこの敷居をはずして頂くと水が川から供給されます。水の温度は魔法で適温に保たれますから気兼ねなくお湯を使ってください」

 ウカル司祭様に内容を説明していく。


「私は勘違いしていたよ。ユウマ君は私の事がてっきり嫌いなのかなと思っていたよ」

 ウカル司祭様が、突然語り始めた。

 その表情には、いつも俺を困った奴と見てくるような感じは一切見受けられなかった。

 高揚感を含んだ表情で俺を見てきている。


「でもそれは杞憂だったようだね。ユウマ君は、これを村の皆に解放するんだろう?なら君もきちんとした思慮ある大人になったということだよ。私はうれしいよ」

 とうとう、ウカル司祭様が男泣きをしてしまった。

 俺ってそんなにダメな人間だったのだろうか?

 そういう大げさなリアクションを取られると、とてもいたたまれないんだが……。


「ウカル様、顔を上げてください。俺がウカル様を嫌いになるわけないじゃないですか。それと、このお風呂の件ですが設備を作ったのは俺で管理は教会という形にしてくれませんか?」

 俺の言葉にウカル様は考え込んだ。

 貴族のように毎日お風呂に入れるようになるのだ。

 もしかしたら何か問題が起きるかも知れない。

 俺の工事は完璧だから俺の工事内容で欠陥がない限り、何か問題が起きた場合でも教会が管理しておいてくれれば教会が矢面に立ってくれる。

 いわばこれは俺に苦情がこないための保険でもあるのだ。

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