第65話

 なら……。


俺は魔法を発動させるための事象を想像する。

 雲というのは小さな水の塊の集合体だ。 

 それらは上空数キロメートルと言う高度に存在している雲は、大気の気温が極端に低い場所に存在する為、過冷却の状態で存在する。

 そのため、極小の氷の結晶で出来ている。

 そして上空の10キロメートル付近では、大気の温度は極端に低い。

 それはマイナスの温度に達していて雲は全て氷の氷晶だけで出来ている。


 そしてそれらが地表に降ってくる時に、大気の温度が極端に低い場合のみ氷の結晶が溶けない。

 そしてその氷の結晶が雪となるのだ。

 つまりそれと同じ現象を想像し魔法を発動させればいい。


 地球で得た科学知識を動員して、魔法を、事象想像を組み上げる。

 ”乱層雲”の魔法を発動、高高度にまずは雪を降らせる雲を作り出す。

 次に大気の温度を下げる魔法、”分子速度低下”の魔法を発動する。

 それに伴い、急速に周囲の気温が下がっていく。


「リリナ、村の皆にこれから数日間は雪が降ることを伝えてくれ」

 俺の言葉にリリナが頷き村に走っていく。

 雪が降るということは、農村では死活問題だ。

 すでに作物の刈り入れは終わってるから、薪さえあれば村内で年を越す事は可能だろう。

 だが、簡易テントで野営をしてる軍隊はそうはいかない。

 彼らは、防寒着すら彼らは持ってきていないのだ。

 ならどうなるか?それはすぐに想像がつく。

 

 


 熱の放射というのは、大気の分子運動が活発な状態だからこそ熱を生み出す。

 逆に分子運動が遅くなればなるほど熱エネルギーというのは小さくなる。

 それと同じ現象が現在起きている。

 大気中の熱は失われており吐く息が白くなるほど肌寒い。


 そして高高度に展開している乱層雲から降ってくる氷の結晶が完全に溶かされる事なく雪として地表に到達し、薄らと静かに白く地表を覆っていく。


 大気の熱を奪う事と乱層雲を作る事にかなり時間を費やした事もあり、雪が降り出したのは朝日が昇ろうかとした頃であった。


「ユウマ!これは一体どういうことだ?」

 エメラダ様が鎧を鳴らしながら俺の元まで近づいてくる。

 俺が壁の上に座っているとエメラダ様から話しかけてきた。

 俺は、《天候制御》の魔法を発動したまま、エメラダ様の近くに着地する。


「エメラダ様、突然このような作戦を取ってしまい申し訳ありません。何分、本当にできるか不確定だった事もあり試しに行ってみました」


「―――ま、まさか……この雪はユウマが降らせていると言うのか?」

 エメラダ様は何を驚いているのだろうか?

 魔法ならこのくらい出来ると思う。

 俺の世界のゲームには昼夜逆転の魔法すら存在するのに。


「はい、多少時間は掛かってしまいましたがうまくいって良かったです」


「……そ、そうか。だ、だが……ユウマ、天候を操る魔法は使用出来ると絶対に口外はするな。いいな?」


「はい?」

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