第64話
「ユウマ君。大丈夫だった?お父さんとか何も話してくれなかったから、いくらイルスーカ侯爵軍がきちんとしているって言っても、村長とかユウマ君を悪者にしていたら?って思うと。そしたらユウマ君がひどい仕打ちを受けたらと考えたらね……私、とても心配で」
瞳に涙を湛えてリリナが俺を見上げて見つめてくる。
どうやら、リリナにはかなり心配をかけさせてしまったようだな。
俺はリリナの頭の上に手を置くと撫でながら言葉を紡ぐ。
「大丈夫だ。エメラダ様はそんなにひどい人では……」
話の途中で、エメラダ様に足で踏みつけにされた痛みと、腰のサーベルに手をかけていた姿を思い出す。
「……無いと信じたいな」
擁護できる点がまったくない。
リリナもそうだがエメラダ様も、すこしだけでも暴力的なところを無くせば良いのに……。
「それって本当に大丈夫なの?ユウマ君、どこか抜けているから心配になっちゃうよ」
心配そうに俺を見てくるリリナを見て俺は内心ため息をついた。
こんなんじゃリリナが、独り立ちできないな。
いつか誰かと結婚するかも知れないのだ。
その時に、『手のかかるユウマ君がいるけど、私がいなくなっても大丈夫かな?』と言われないようしなければ……。
「それにしても寒くなってきたよね?これ温かい白湯だけど……」
俺はリリナに差し出された湯気が立っている白湯を口にする。
「うん、おいしい。やっぱり寒いんだな」
ずっと家に帰らずに2週間以上も外で暮らしていた事もあり、体が寒さに慣れていたのだろう。
お湯を飲んだ瞬間、体が温まっていくのを感じる。
「そうだね。あと少しで冬だもんね……そしたら冬篭りとかで動物さんとかいなくなるから食料とか大変になるね。ユウマ君も猟師の仕事が大変になるよね?」
「――んっ?リリナ、今の言った言葉をもう一度言ってくれないか?」
俺の言葉にリリナは頭を傾げた。
「猟師の仕事が大変になる?」
「違う、その前だ」
「冬篭りで動物さんがいなくなる?」
「――それだ!リリナは天才だな!さすがはリリナだ!」
俺はリリナを抱きしめる。
「ちょっと!ユウマ君。まってよ!何……でも、このままでもいいかな……」
リリナは俺に語りかけながら、顔を真っ赤にして俺の胸に顔を当ててきた。
そして潤んだ瞳で俺を見つめてくる。
「ねえ……ユウマ君。私、役に立てた?」
リリナの言葉に俺は頷く。するとリリナは照れくさそうに笑顔を向けて話しかけてくる。
「よく分からないけど、ユウマ君の力になれたなら良かった」
その言葉と仕草を見て思わず俺はドキッとしてしまった。
そしてすぐに頭を振って考えを切り替える。
そして、リリナの言葉を参考にしてこれからの事を考える。
冬になれば体温低下を起こし凍傷を引き起こす。
なら雪を降らせてウラヌス十字軍に冬の到来を知らせて野戦のために陣地を布いて置く事は危険だと分からせればいいんだ。
古来より冬になると戦争は止まる事が多い。
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