第63話
「うむ。そうなるが……あまり長い時間、相手を領内に入れておくのもイルスーカ侯爵家に自治力が無いとアルネ王国の王家に思われかねん。そこでだ!物は相談なのだが……相手を傷つけずに撤退させる事は出来ないだろうか?」
「……無傷で相手を撤退に追い込むですか?」
それは無理な気がする。
何せ相手は国の威信を背負って攻めてきている軍隊なのだ。
そんな相手を怪我させずに無傷で撤退に追い込むなんてどう考えても無理だと思う。
「うむ。ユウマ、お前ならそれが出来るのではないかと私は期待している」
そんな期待されても困るんだが……。
「エメラダ様の部下の騎士団30人で何とかなりませんか?相手は丸腰ですし……」
俺の言葉にエメラダ様は頭を振る。
「無理だな、あれだけの数を30人で撤退させるなど出来るわけがないだろう」
そうなると、魔法でなんとかする必要がある訳だがどうすればいいのか皆目検討がつかない。
「すぐに決める必要はない。数日の間に良い案を出してくればいい」
また無茶振りをしてきたな。
俺、何でも出来る四次元ポケットは持ってないんだぞ?
話をした後、エメラダ様はその場に残ると仰られたが、エメラダ様の側近と思われる男性騎士が4人ほど迎えにきたので、エメラダ様には村長の家でお休み頂けるようにお伝えして別れた。
「さて、どうしたものか……」
俺は、一人呟きながら前方に陣地を構えているウラヌス十字軍を見据える。
俺が発動できる魔法は、あくまでも俺が想像出来る範囲であり、麻酔関係の魔法は知識にない事から想像ができない。
そのために魔法を発動させることが出来ない。
逆に人間の肉体構造については基本となる知識を中学・高校時代に習うので、それを参考にして肉体強化の魔法を発動させる事は出来る。
そして、それは攻撃魔法と防御魔法にも及んでいる。
つまり、俺が使える魔法というのは前世の物質界の物理に準じた物しか使えないという事だ。
だから相手を無力化する魔法というのは限りなく狭められる。
相手の意識を狩る魔法なら大気の構成物質の割合を変化させればいいが、その魔法がどれだけ人体にダメージを与えるのか想像が出来ない。
そして今回の一番の問題は、エメラダ様から無茶振りされた相手に怪我を負わせず無傷で撤退させろと言う点だ。
そのような事が出来る魔法なんて想像がつかない。
「ユウマくーん」
「ん?」
声がした方向を振り向くと、村側の掘の外に幼馴染のリリナが立っていた。
リリナは両手に大きな布袋を抱えている。
おそらく夜食を作って来てくれたのだろう。
そう考えると、今日はほとんど食事を取っていないことを思い出した。
お腹も思い出したように食事を催促しだす。
俺はリリナからの差し入れを受け取るために、《探索》の魔法を発動させてウラヌス十字軍に動きが無い事を確認して塀の上から跳躍しリリナの傍に着地する。
するとリリナはすぐに言葉を話しかけてきた。
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